〈不治の病・其の三〉-3
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『さすがに喧しいな』
『この音が声を掻き消すんだ。ありがたい事だよ』
あれから一週間。
ボイラー技師は入れ替わり、巨大なボイラー室全体が院長の手から離れた。
緊急時にも頼れる自家発電の為と、病院全体を暖かく保つための熱源として利用されているボイラーは、やはり巨大な病院にあわせて面積は広い。
異常事態に備えて防爆壁に囲まれた此処は、病院の裏手に作られており、まず外部の者が訪れる事は無い。
灯油の燃焼音は凄まじく、会話もままならない程だが、この騒音こそが男達の望むものだった。
騒音と防爆壁。
広大なボイラー室の片隅にある部屋の中なら、その騒音は防げているし、女性一人の悲鳴なら、全て外部に伝わる前に掻き消される。ボイラー技師を味方にして、関係者以外立ち入り禁止にすれば、此処は理想的な監禁部屋となる。
オヤジ達はボイラー室を抜け、その片隅にある部屋へと向かった。
ドアノブを捻り中を覗くと、メンテナンスに使う工具やスペアの部品などが置かれていた。
それらを何処かに寄せてしまえば、三メートル四方位の空間が生まれる。
小さなガラス窓一枚で、少し狭い気もするが、それなりに騒音は和らげられていたし、女性一人を姦すくらいなら充分過ぎる広さだ。
『よし、ここに機材を運べ。あと撮影道具もな』
数人の逞しい男達が機材を運び込み、部屋の中で組み立て始めた。
巨大なボイラーを収めている区画に備えられた部屋は、その狭さには釣り合わぬ高い天井を有していた。
その高さを有効利用しない手はない。
様々な長さの鉄パイプを、クランプと呼ばれる金具で繋げて櫓のように組み上げていく。
部屋の四隅を繋げるように組まれたそれは、2メートルを超える高さの長方形の櫓で、幾重にも絡げられて作り上げられていた。
『……それにしても、あんなに金を渡さなくてもよかったんじゃないんですか?』
一人の屈強な男が、院長に手渡した金額の事でオヤジに意見をした。
あの札束には、麻衣の稼ぎだけではなく、あの新人ナースや亜矢を売った儲けまでも含まれていたのだ。
つまり、ここ最近の稼ぎの殆どを手渡した事になるのだ。
不満が出てもおかしくは無い。
『撮影場所を提供してもらった一発目のギャラだろ?多少盛った方がイイんだよ。そうすりゃ、これからの俺達の要求はすんなり通るはずだ。あれだけガッポリ金が貰えたんだからよ』
オヤジは自分の頭を指差しながら、口元をクニャリと曲げた。
レイプ映像の稼ぎに疑問を抱いていた院長を納得させるには、あれ位の金を渡さないと効果が薄い事をオヤジは知っていたのだ。
そして、更なる要求を突き付けた時にも、それがすんなり通る事になるはずだとも踏んでいる。
目先の損得ではなく、その先の事を、オヤジは考えていたのだ。