投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

うさぎ
【ファンタジー その他小説】

うさぎの最初へ うさぎ 5 うさぎ 7 うさぎの最後へ

うさぎ-6

 彼女の母親は、とても旦那に従順な『正しいタイプ』のうさぎでした。近所の井戸端会議にも出て、旦那の暴言にも耐え、できるだけ波風立てないで人生を過ごそうとしているように見えました。

 ある日、母親はふらりと村に入ってきたキツネに鋭い牙で切り裂かれ、半死半生で巣穴に戻ってきました。巣穴には父親はおらず、子うさぎも彼女一匹が残っているだけでした。母親は彼女に向かって、初めて本音を漏らしたのです。


ああ
本当はもっといろんなところに行きたかったよ
結婚だって、実はほかにもっと大切な人がいた
もっとやりたいことはいくらでもあった
やりたくないことばかりやってきた
ずっとずっと我慢してきたんだよ
ねえ
おまえはもっと自由に生きるといい
やりたいことがあれば、なんだってやるといい
ほら
我慢していたって、いつかはこうして終わりがくる命なんだ
寿命をまっとうしたところで
10年かそこらの命なんだ
それなら
終わりが来るまでの短い時間
やりたいことをやらずに終わるなんて
そんなに悲しいことはないだろう
ねえ
おまえは
自分の思う道を進んでいきなよ
誰に遠慮がいるものか

それはおまえだけに与えられた命なんだから


 息も絶え絶えに母親が語った言葉は、彼女の胸にしっかりと刻み込まれました。
母親は直後に亡くなり、同時に彼女は父親には何も告げることなく巣穴を飛び出して、自分だけの生活を始めました。

 誰にも守られないその生活は、とてつもなく不安で恐ろしいものでしたが、同時にこれまでに感じたことのない喜びに包まれたものでもありました。世間の厳しさを肌身で味わい、そしてそれを切りぬけていく日々は彼女にとって何物にも代えがたい輝いた毎日となったのです。


うさぎの最初へ うさぎ 5 うさぎ 7 うさぎの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前