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うさぎ
【ファンタジー その他小説】

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うさぎ-5

 大きな後ろ足で軽く地面を蹴り、彼女は巣のある穴ぐらのなかへと戻りました。そこには可愛い子供たちが待っています。

 子供たちには生まれてから半年ほどの間に、水のある場所やエサになる草の生えている場所、そしてほかのうさぎに絶対に迷惑をかけてはいけないということだけをしっかりと教え込んでいます。後は好きなように生きるといいけれど、それだけは覚えておきなさいと。


 薄暗い巣穴の中には、今は2匹の子供が残っていました。

 1匹はまだずっと小さなころに近所の子うさぎたちにいじめられて右の後ろ足を折ってしまい、それ以来うまく跳ねることもできず、巣穴の外へは出ようとしなくなってしまいました。母親が運んでくるわずかな牧草だけを食べて命をつないでいます。彼女は子うさぎの体を優しく舐めてやり、声をかけました。

「アタシが生きている間は、こうしてずっとそばにいてやるよ。でもね、もしもアタシも兄弟もいなくなって、だれも食べ物を運んでくれなくなったら、おまえはここでひとりで骨になるしかないんだよ?それでいいんだね?」

 子うさぎは目を細めてにっこりと笑います。

「かあさん、それ、もう何度も聞いたよ。僕はこのまま、母さんがいなくなるまでこの穴の中で暮らすよ。そして食べ物が無くなればそれで仕方無い。この穴の中で母さんのそばにいることだけが、僕の幸せだから」

 子うさぎは母親の体にぺったりと身を寄せて甘え、瞳を閉じます。母親はその身を受け止め、優しく囁きます。

「そうかい。それがおまえの選んだ道ならかまわない。好きなようにするといい」

 彼女はこれまで育ててきた子供たちに思いを馳せます。

 まわりのうさぎと同じようにパートナーを見つけて無事に巣立っていった子供たちも、もちろんたくさんいました。そして彼女はその相手がたとえどんなにろくでなしであっても、決して反対はしませんでした。ただ、「それがおまえの選んだ道ならかまわない」と優しく微笑むだけです。

 遠くの森で暮らしたいと言った子うさぎもいました。ただ大好きな草だけを食べ続けて過ごしたいと出て行った子うさぎもいました。それぞれの子うさぎが、それぞれに選んだ道を、彼女は一切反対をせずに満面の笑みを浮かべて送り出してやりました。

 小鳥たちの噂話で、そうして出て行った彼女の子供たちが短命で亡くなったという話が聞こえてくることもありました。それでも彼女は胸の痛みを堪えて、あの子たちが選んだ道だから、誇りを持って生きることができたのならそれでいいと思いました。


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