甘い時間-3
この日も、ふたりで飲んでいた店のカウンターでそうつぶやいたわたしに、優希は笑った。
「なに言ってんのよ。こっちは亜由美のことがずっとうらやましいって思ってるのにさ」
「なんで?わたしのどこがうらやましいのよ」
わたしなんて、背も低くて仕事もそんなに出来なくて、ちっとも素敵な女の子じゃないのに。
「いいじゃない、なんていうか、可愛げがあってさ。素敵な彼氏もいるでしょ?アタシには男なんて寄ってきやしないんだから」
「そうかなあ・・・」
たしかにわたしには彼がいる。でも学生時代から付き合っていて、もうそろそろお互いに飽き始めているのがわかる。電話もメールも、日毎に減っていくばかり。そんなのがうらやましいだろうか。
「優希にさあ、彼をつくる気が無いだけなんじゃない?こんなに素敵なんだもの、その気になれば恋人のひとりくらいすぐにできるよ」
「えーっ、そうかなあ・・・ふふ、じゃあさ、亜由美が恋人になってよ」
優希は悪戯っぽく上目づかいでわたしを見た。薄暗い照明に照らされた優希の顔は、酔っているのかほんのりと赤く染まっている。またいつもの冗談が始まった。
「そうね、じゃあわたしたちは恋人同士よ。浮気なんかしたら許さないんだから」
わたしもノリでそう応えてやる。優希はとろんとした目でわたしの肩にもたれかかってきた。
「亜由美こそ。彼よりアタシを選ぶのね?」
「もちろん。あんなやつより優希のほうが100倍良いよ」
ふたりで声を揃えて笑ったのを見て、馴染みのバーテンのおじさんが微笑ましげな視線を送ってくれた。優希が時計を見る。
「あ、ねえ、そろそろ帰らなきゃ終電間に合わないよ。ここから電車の駅まで行くバスがもう最終じゃない?」
ああ、いまからすぐにダッシュしても間に合うかどうか。バーテンのおじさんにまた来ますと手を振って、わたしたちは荷物やコートを手に抱えたまま、きゃあきゃあと嬌声をあげながら薄暗いバス停までの道を駆け抜けた。