第26話 ひとりぼっち-1
「このまま続けるって・・・もう無いのよ・・・・・。これで終わりにしよう・・・すべて・・・・・。」
「睦美さん・・・終わりにしようって・・・どう言う事ですか!?・・・・・・。」
「別れましょう・・・お互いの為にも・・・・・。どう考えても、無理なのよ・・・・・。」
「旦那さんですか!?・・・旦那さんに言われたんですか!?・・・・・・。」
「正直話すとそれもあるわ・・・・・。でも、よく考えて・・・私が、あなたに飛び込んでも、幸せに出来る自信があるの?・・・私の事を、胸を張って世間様に言えるの?・・・・・。あなたに捨てられたら、私はどうすればいいの?!・・・・・。こんな歳じゃ帰る所なんて無いの・・・だから・・・だからなのよ!・・・・・。」
「そんな・・・だって睦美さんは、僕の事を・・・愛してる・・・愛してるって言ったじゃないですか!・・・それなのに・・・それなのに・・・・・。」
慶は、睦美に突きつけられた現実を、受け止める事が出来なかった。
正確に言うと、分かっていても受け止めたくは無かった。
ただ、今となっては、根拠も無く否定するしかなかった。
慶はたまらず、睦美の両手首を握ると、訴え掛けるかの様に跪いて泣き崩れた。
「慶の事は、今でも愛してるわ・・・これは本当よ・・・・・。初めて会った時も、『もう少し早く生まれてくれば』と言われた時は嬉しかったわ・・・・・。私だって今は同じ気持ちのな・・・もう少し若ければって・・・・・。若ければ、人並みに一緒に歩けたし、色んな所にも行けたわ・・・・・。でも・・・それは儚い夢・・・現実的には無理だったの・・・・・。結局は、暗闇で愛を確かめ合うしかないのよ!・・・・・。もう・・・それに我慢出来ないのよ!・・・・・。」
「僕は構わない!・・・睦美さんと一緒なら、何だって構わない!・・・・・。だから僕と・・・僕と・・・・・。」
慶からは、涙が溢れて止まなかった。
愛する者を失う、初めて味わう喪失感に耐えられなかった。
「お願いだから、分かってちょうだい!・・・・・。今・・・今だからこそ良いのよ!・・・・・。これ以上、崩れて行く所なんて見せたくないの・・・愛してる人だから言ってるのよ!・・・・・。だから・・・今日は初めからそのつもりでいたの・・・せめて最後は思い出の場所・・・このホテルを選んだのよ・・・・・。」
睦美は、手を振りほどくと、跪いて泣き崩れてる慶の肩に、宥めるように手を置いた。
慶は、現実を受け止めるしかなかった。
睦美の言葉一つ一つが正論であり、それを覆す勇気も自信も無かった。
それでも、睦美を失いたくない気持ちだけが、慶の心を支配していた。
この先の、睦美の居ない生活を考えると、気が狂いそうで耐えらなかった。
『もう失いたくない・・・・・もう・・・・・失いたくない・・・・・』
この言葉が、慶の頭を駆け巡ると、表情は虚ろになった。
たまらず、次の瞬間・・・・・。
「やだよ!・・・もうやだよ!・・・一人ぼっちはやだよ!・・・・・。誰も逃げないで!・・・僕から逃げないで!・・・・・。」