第25話 告白-1
二人は、ホテルの部屋の前に着くと、睦美が鍵を開けて先に入った。
「うわ〜・・・久々だけど、全然変わらないわ・・・・・。」
睦美は、部屋もあの時と同じ場所を予約していた。
慶との最後の至福を、あの時と全て一緒に向かえたかったのだ。
睦美は、ショルダーバッグをベッドの脇のテーブルに置くと、トレンチコートを脱いでクローゼットに掛けた。
「睦美さん・・・・・。」
「ふふ・・・気付いてくれた?・・・・・。そう・・・初めて慶と会った時と同じ服装・・・そして初めて描いてくれたのも同じ・・・・・。」
「さすが慶ね・・・見ないで、あれだけ正確な絵が描けるんだから、当然かな・・・・・・。」
もちろん睦美の言う通りに、あの時の情景は、今でも鮮明に覚えていた。
ただ、睦美が服装以外にも、思い入れのホテルに誘う所から、何かただよらぬ事態が起きそうで、慶の心を惑わせていた。
「ほら見て・・・景色も良い眺めだわ・・・・・。本当・・・あの時と変わらないわ・・・・・。」
睦美は、窓のカーテンを開けると、窓下のカウンターに両手を付いて眺めながら話した。
それを見た慶は、肩に掛けたリュックをベッドの上に置いて、ダウンジャケットを脱ぐと、睦美の方に近づいていった。
「本当ですね・・・あの時と何も変わらない・・・・・。ただ変わったのは、僕達の関係だけですね・・・・・。」
慶は、睦美を背後から抱きしめると、頬に軽く口づけを交わして、しばらくそのままで居た。
そして睦美は、慶に体を預ける感じで、うっとりとした表情で振り向いた。
「そうね・・・ここで全てが始まったのよね・・・・・。そして・・・初めて慶と・・・ふふふ・・・・。」
「睦美さん・・・何が可笑しいんですか?・・・・・。僕だって・・・・・。」
慶は、あの時の滑稽な自分の事を笑ってると察して、顔を赤らめた。
「ふふ・・・だって本当に可笑しかったんだもん・・・・・。でも・・・嬉しかったわ・・・これも本当よ・・・・・。だって・・・慶と一つになれたからね・・・・・。」
「ただ・・・正直、初めは怖かったのよ・・・こんな私を受け入れてもらえるか・・・・・。だって・・・歳も違い過ぎるし・・・何より、慶にとって私は・・・・・。」
「何度言わせるんですか睦美さん・・・・・・。僕にとってはかけがえのない人・・・・・・。」
慶はそう言いながら、振り向いてる睦美に、唇を重ねた。
睦美にとっては、複雑な思いでありながらも、一人の女として認知する、慶の言葉一つ一つが嬉しかった。
これが最後と思えば、尚更だった。
慶は口づけを止めると、睦美の体を向かい合わせにした。
そして、睦美の両肩に手を掛け、しばらく見つめ合うと再び唇を重ねた。
それは、何度も軽く交わし、やがて激しく絡みついた。
睦美は勢い余り、窓下のカウンターに体を預けた。
慶は、睦美を追い込むかのように、激しく交わし、首筋へと立てた。
「はあ・・・はあ・・・慶・・・・・。」
睦美は、背中を窓ガラスに押し付けられ、波が岩場に打ちつけられる冬の海を背にして、激しく乱れた。
車内で火照った身体は、慶が欲しくてたまらなかった。
二人はしばらく、着衣のまま身体を確かめ合った。
「睦美さん・・・はあ・・・はあ・・・・・。」
やがて慶は、行為を止めて睦美から身体を離した。
その表情はどこか険しく、睦美の思惑通りの予兆と受け取られ、着衣の乱れを正しながらも覚悟を決めた。
「睦美さん・・・約束通り、僕の話しを聞いてくれますよね?・・・・・・。」
慶は、睦美の両肩を強く握ると、意を決した表情で見つめて話した。
どうしても、肌を交わす前に、自分の確かな気持ちを伝えて起きたかったからだ。
それは睦美も同じで、気持ちだけがすれ違っていた。
睦美は、慶に視線を合わせる事無く、横を向いたまま黙って頷いた。
「睦美さん・・・僕と・・・僕と一緒になって下さい!・・・・・。」
慶は、さらに睦美の肩を寄せるように強く握ると、真剣な眼差しで話した。
予想してとは言え睦美の表情は困惑して、慶の手を振り解くと、窓下のカウンターを降りて背を向けた。
「僕の・・・僕の話しを聞いて下さい!・・・・・。」
慶は、睦美の拒絶した反応に、訴え掛ける様に続けた。
睦美は視線を下げ、目を瞑るように、背中越しに話しを聞いた。
「睦美さん覚えてますか?・・・以前話しましたよね?・・・僕に興味のある会員の事・・・・・。実は、その人は大学で美術の講師をしていて、美術雑誌の編集員と知り合いみたいなんです・・・・・。それで・・・その人が、僕の事を紹介してくれるとメールが来たんです・・・・・。だから・・・僕は、それに掛けて見ようかと思ってるんです・・・・・。返事もすでに送ってあります・・・・・。」
「もちろん初めは迷いました・・・・・。僕の才能がどう転ぶかも分かりませんから・・・・・。でも・・・睦美さんは僕の事を認めてくれましたよね?・・・僕の絵を・・・・・。確かにこの世界は一握りです・・・僕の言ってる事が馬鹿馬鹿しいのも分かります・・・・・。それでも捨てたくないんです・・・僕の唯一の光を・・・・・。僕は、それに向かって行きたいんです!・・・・・。」