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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-4

「これだから、素人は困る」

 中島と岡田は、鶴岡に貶みの眼を向けた。

「どういう意味だ!」

 鶴岡も、黙っていられない。

「時には、彼女達にしか出来ない捜査があるって事だ」

 不要ないさかいを取り除くべく、島崎が自ら割って入る。

「組織の拠点やヤクの取り引き現場に、男の捜査官では目立ち過ぎる。
 その点、女性は風景に溶け込み易い。特に、この二人の様な風貌なら尚更だ」

 島崎が佐野を見た。
 佐野は微笑み、小さく頷いた。

「──それで、先ほどの件ですが」

 互いの挨拶が終わり、佐野は改めて島崎に訊いた。

「この報告書に書かれた現場です。事件当日の目撃者が居なかったとなっていますが、それは、配達員を除けば近隣住人の証言だけですか?」
「ああ。死体が遺棄された通りに面した世帯全てに聞き込みを掛けたが」

 島崎は答えながら、怪訝な気持ちになった。
 捜査方法としては、普通のやり方だ。佐野は、何処に引っ気掛かったのかと。

「では、この地区に古くからの住人への聞き込みは行っていないんですね?」
「古くからの住人?」

 佐野は小さく頷いた。

「あの辺りは、新興住宅街となる以前は在日外国人の居住区があった場所で、今でも少数ですが住んでいるんです」
「在日外国人?」

 捜査官全員が、佐野の方に目をやった。
 佐野は、ホワイトボードに貼られた現場一帯の地図を差し示した。

「此処が死体発見場所。聞き込みはこの通り。そして、此処から百メートル程離れたこの辺りが在日外国人の居住区です」

 指された場所は、現場から北東に離れた位置だった。

「つまり、彼等なら死体を遺棄した者を見ている可能性があるというのか?」

 島崎の疑問に佐野は応える。

「そうです。但し、彼等の結束はとても強固です。我々が訊いても何も答えないでしょう」
「なるほど……」

 島崎の中で佐野のイメージが揺らぎだした。少なくとも、役立たずではない。

「その在日外国人とのコネクションは?」
「私と岡田が担当します。それに、斉藤、児島、中島は同じく、周辺の工場、建設会社の割り出しに当たらせましょう」

 島崎は考えた。佐野は培った経験に基づき、ひとつの可能性を試すつもりだ。それだけ、自分の持つ情報網に自信があるのだろう。
 但し、これは両刃の剣だ。
 此方の捜査が相手に知れ渡る可能性だってある。佐野は、そこら辺をどう思っているのかを確める必要がある。


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