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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-14

「だから、儂は夜中に集めるんだ。缶は潰さずに袋に入れて、塒に持ち帰って潰すんだッ」
「その集める時間帯は?」
「塒から見えるビルの照明が、零時に消えてからだ。後は明け方までだな」

 老人の答えに、岡田の声が熱を帯てくる。

「新聞配達のバイクとは出会す?」
「ああ。しょっちゅうだ。それが、どうかしたのか?」
「十日前の明け方。不審な車を見なかった?」

 岡田はついに、核心を突いた。

「さあてなあ……」

 老人は、頬をひとつ撫で上げて天を仰いだ。記憶の断片を探る仕種をした。

「よく思い出して。大事な事なのよ」
「そういえば……見たな」

 それは、あまりに唐突な答えだった。

「ど、何処で見たの!」
「新しい住宅街の先にある、旧住宅区。彼処ら辺りだったな」
「鶴岡!地図をッ」
「は、はい!」

 老人の前に、〇〇地区の地図が展げられた。

「此処が新住宅街。こっちが旧住宅区。何処で見たの?」
「こ、此処ら辺りかなあ……」

 二人の剣幕に老人は気圧されながらも、地図のある地点を指差した。

「その車は、どっちに走って行った?」
「こっちから、お、大通りの方へ……」

 旧住宅区から現場を経由して幹線道路へ出た。と示していた。

「車種は?どんな車だった」
「いや……そうじゃなく……」
「ワゴン車か?セダンか?色は?」

 鶴岡の畳み掛ける口調が、老人に考える余裕を与えない──まるで、凶悪犯への尋問のように。

「ちょっと!それじゃ知ってても、喋れないでしょッ」

 すぐに岡田が間に入った。
 唯一の手掛かりだ。ここで機嫌を損ねては、肝心の情報が得られなくなる。

「ゆっくり思い出して。焦らなくて良いから」

 老人は腕を組んでしばらく俯いていたが、やがて訥々と語りだした。

「夜明け前の暗闇の中、車が近付く音がして……儂はパトカーかもって、自販機の裏に隠れたんだ。
 そうしたら、小型の黒いトラックが走り去った。凄い速さだった……」

 ようやく得た目撃者証言に、鶴岡は喜びを禁じ得ない。

「また分からない事があったら、来ますから!」
「ああ。今度は、刺身を頼むよ」

 二人は、老人との再会を約束してその場を離れた。



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