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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編-13

 雑木林から十分後。車は〇〇地区近くを走る河川沿いの道に停まっていた。

「この辺りの橋なら、相当数に上りますよ……」

 鶴岡の言う通り、数十メートル間隔で橋架かっている。

「とりあえず、此処を起点にして上下流一キロを捜しましょう!」

 坂上を一人車内に残し、二人は河川の護岸ブロック上に降り立った。
 川幅五十メートル程の護岸を、男の塒(ねぐら)を求めてひた走る。
 そうして、捜索を初めて三十分程経った頃、突然、鶴岡の携帯が鳴った。

「はい!……こちら鶴岡ッ」
「見つけたわ……坂上さんを連れて来て」
「分かりました」

 鶴岡は急いで車のところに戻り、坂上と共に岡田の下へと急いだ。

「こっちよ!」

 起点から三百メートル程上流に岡田は居た。傍らには、黒い野球帽を被った小柄な老人が立っていた。

「如何ですか?」
「間違いない、正ちゃんです」

 捜査開始からニ時間。ようやく、目当ての人物を発見した。

「な、何だよ?お前等」

 見知らぬ者逹の突然の訪問は、老人の挙動を落ち着かない物としていた。
 鶴岡は一旦、坂上を車に連れて行くと、弁当入りのビニール袋を抱えて戻って来た。

「爺さん。あんた、〇〇地区で空き缶集めてるんだってな」
「な、何だよ……」

 鶴岡の高圧的な態度に、老人は怯えた眼になる。

「駄目よ。そんな言い方じゃ」

 岡田は、鶴岡からビニール袋を奪い取った。

「私達ね。教えて欲しい事があって、あなたを捜してたのよ」

 そう言って弁当を手渡すと、老人の顔にようやく笑顔が浮かんだ。

「すまねえな……」

 食い物に困窮すると、人間とは、これ程に周りが見えなくなるものかと鶴岡は思った。
 雑木林に居た浮浪者達同様、老人も又、食べる事以外は眼中に無いと言った様子だった。
 岡田は、その傍らに腰掛けて喋る機会が来るのをひたすら待っている。

「〇〇地区の空き缶集めは、あなたの縄張りだと聞いたけど?」

 弁当をひとつ食べ終えてひと心地着いた時、岡田はおもむろに訊いた。

「そう。あの辺りは儂の縄張りだ」
「彼処では、何かと煩いでしょうに?」

 住宅街で浮浪者等の不審者が目撃されると、警察に通報される場合が多々ある。
 その事を訊ねると、老人は得意気な顔になった。


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