第21話 加奈子と大学生-1
駅前の大通り。
二人は外国製の赤いハッチバックの小型車に乗り、帰路を走っていた。
「加奈子さん本当に助かるわ・・・いつもバス時間を待つのが面倒でね・・・・・。」
睦美は車の免許は持っておらず、絵画教室へはバスで通っていた。
「本当に良いのよ・・・こうして睦美さんと話しながら帰れるしね・・・・・・。」
「それでね・・・実は話しておきたい事があるのよ・・・・・。」
「えっ・・・私に?・・・改まって何かしら?・・・・・。」
「別に、そんな大した事じゃないんだけど・・・・・。ただね・・・絵画教室、辞めようかなって思ってるの・・・私・・・・・。」
「えっ!?・・・どうしてなの?・・・・・・。」
「何か、飽きちゃったと言うか・・・元々私は、そんなに上手い方じゃないし・・・学生時代に美術部に所属してたってだけで、暇だから始めた感じだからね・・・・・・。」
「本気なの?・・・せっかく加奈子さんと知り合えたのに・・・・・・。」
「あっ・・・私も絵画教室で、睦美さんと知り合えたのは良かったと思ってるわ・・・・・。何か話も合うし・・・近所の奥さんを相手するより、全然楽しいもの・・・・・。」
「睦美さんとは、これからも親しくしたいと思ってるから大丈夫よ・・・・・。あっ!・・・そうだ・・・来週の火曜日空いてるかな?・・・ちょっと、付き合ってもらいたい場所があるんだ・・・・・。」
「来週の火曜日ね・・・・・。あっ・・・ちょっとごめんね・・・無理かもしれないわ・・・・・。」
睦美は思い返すフリをしただけで、すでに慶との約束があった。
ほぼ、週一のペースで会っていたのだ
「そっか・・・でも、大した用事でも無いから大丈夫よ・・・・・。それより・・・ふふ・・・やっぱ、若い子とデートでも?・・・・・。」
「もう〜加奈子さんったら!・・・まだ言うの〜?・・・・・。」
「冗談よ・・・冗談・・・・・。睦美さん、すぐにムキになっちゃうから、少しからかっただけよ・・・ごめん・・・・・。」
睦美は、相変わらず、加奈子の適当な憶測にヒヤリとさせられるが、ここでチャンスと思い、一度訪ねてみたかった事を聞いた。
「そうだ・・・若い子って言えば・・・以前、加奈子さん付き合ってたとか言ってたわよね?・・・・・。」
「えっ?・・・・・。」
「あ〜・・・もしかしてアレね・・・・・。」
加奈子は、あまり触れられたくない話題なので、少し真顔になった。
「睦美さん・・・そんなに知りたい分け?・・・・・。」
「いやっ・・・そんなつもりじゃないけど・・・ただ、加奈子さんが若い子の事ばかり気にしてるみたいだから、ちょっとね・・・・・。」
「ふっ・・・別に若いから好きって分けじゃないけど・・・・・。まあ良いわ・・・せっかく二人っきりなんだから話すわ・・・・・。」
「睦美さん、ちょっとごめんね・・・・・。」
加奈子はそう言いながら、ダッシュボードから煙草を取り出して口にくわえると、ライターで火を付けた。
睦美は、加奈子の意外な一面を見て、少し驚いた表情になった。
「あれはそうね・・・42の時だったかしら・・・中々子供も出来なくてね・・・主人が会社に出掛ければ毎日一人ぼっち・・・寂しかったわ・・・・・。でも、好きな洋服など買ってもらえるから、生活面では何不自由しないんだけど・・・結局は毎日同じ事の繰り返しで・・・そう・・・毎日同じ餌ばかり与えられる籠の中の鳥かしら・・・・・。だから・・・それに嫌気がさしてパートにも勤めたのよ・・・・・。その時だったわ・・・彼と出会ったの・・・・・。」
「以前話してくれた・・・例の大学生の事かしら?・・・・・。」
「そう・・・人懐っこくってね・・・可愛い子だったわ・・・・・。私と同じ売り場に配属されて、色々と仕事を教えてたら、そのまま親しくなってね・・・・・。それで・・・ある日、帰りの時間が一緒になって、食事に誘われたんだ・・・・・。口が上手い子でね・・・・・。軽い気持ちだったんだけど・・・そのままズルズルとね・・・・・。」
「関係を持ったわけね?・・・・・。」
「まあね・・・私も火遊びのつもりだから、これっきりにしようと思ったけど出来なかったわ・・・・・・。何でだか分かる?・・・・・・。」
「えっ・・・まあ・・・そうね・・・彼の事が好きになってしまった・・・とか?」
「ふふ・・・だったら私も可愛いところがあったんだけどね・・・・・。彼ね・・・上手かったのよ・・・・・。言ってる意味分かるよね?・・・・・。」
「ま・・まあ・・・そうね・・・何となく・・・・・。」
徐々に、加奈子の雰囲気も変わると、話題も良からぬ方向になり、睦美の表情も困惑してきた。