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「こんな日は部屋を出ようよ」
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「こんな日は部屋を出ようよ」中編-1

 翌日

「どうしたんだ?辛気臭い顔して」
「う、うん……」

 周りから楽しそうな声が聞こえているのに、僕はトレーに乗せたランチを前に頬杖をついている。
 友人は心配して訊いてくるが、核心に触れない説明の煩わさに、答えるのを躊躇わせてしまう。

「どうせアレだろ?従妹の……!」

 慌てて口を噤んだ友人に、僕はきつい眼差しを向けた。

「……危ない、危ない。またお前に怒鳴られるところだった」
「ありがとう。忘れないでいてくれて」
「だいたい、お前がそんな顔してメシ食うのがイケないんだぞッ」
「悪かったね」

 友人に「メシは楽しそうに食え」とたしなめられるが、なかなか彼のように達観するのは至難だ。
 その切り替えの巧さは特筆ものだと思う。何時会っても機嫌が悪いところを見た事が無いし、嫌な事が起きても落ち込まない。だから、周りが放っておかずに人が集まる。

 僕には真似出来ない芸当だ。
 ちょっとした事でも思い悩んで悔やむ僕は、何時も自分に自信がない。

 ──わたしにも、一本もらえませんか?

 今も、ルリが見せた一連の行動に思い煩っている。
 昨夜の彼女は何処かおかしかった。冷然さも無く、落ち着かない様子だった。
 それに、僕に向けられたあの一言。
 煙草を吸いたいとは何だろう。単に大人への憧れか。それとも、彼女の精神状態が危険レベルに達しているという信号なのか。

 自分の時と照らし合わせてみる。
 思えば、憧れは勿論の事、大学受験へのストレスも重なっていたのだと覚えている。
 嫌なら何時でも辞められるだろう、くらいの軽い気持ちでしかなかった。
 ところがだ。今では、精神の安定を図る為の必需品と化して、辞められない始末──本末転倒だ。

 僕はルリに、煙草の何たるかを伝える事にした。

「吸ったら気持ちが落ち着くんでしょう?」
「それは、かなり吸い馴れての事だよ。体内のニコチンが切れると脳が不安に思うんだ。
 煙草を吸ってニコチンを取り込めば、リラックス出来るって脳は解ってるのさ」

 彼女に説明する事が、自戒のように聞こえた。

「煙草ってのは依存性の高い物だよ。〇〇の様に劇的じゃないけど、徐々に身体を蝕んでいくから始末に悪い」
「それが、どうしたんです?」

 ルリは怪訝な表情をした。
 僕がおかしくなったと思っただろうか。煙草に頼りきっているくせに、その害悪を説くという行為が滑稽に映ったのかもしれない。

「──だから、吸わない方がいい。興味本意でなら必ず後悔するよ」

 未成年だからと頭ごなしに否定するのは容易い。でも、言えなかった。人間の決めた掟なんか欲望の前では無意味だ。
 やりたくなれば、後の事など考えずに吸うだろう。


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