「こんな日は部屋を出ようよ」中編-9
「あ痛た……か、身体が固まって」
何時間も机に座っていたおかげで、身体がミシミシと痛む。
「何だ?これ」
「自作の問題用紙。それが答えなんだ」
「これがねえ。どういう経緯でそうなったんだ?」
友人は、繁々と出来掛けの問題用紙を見つめている。
「色々とね。最後は家庭教師として決めたんだ」
「で、昨日から始めてこれ一枚か?」
「……う、うん」
一晩中掛かって出来たのは用紙たった一枚。こんな調子では、模試を繰り返す程の枚数を作るなんて無理だ。
「その返事じゃ、上手くいってないみたいだな」
「うん……月曜の夕方までに、なるべくたくさんの問題用紙を作りたいんだけど」
「しゃあないな。手伝ってやるよ」
「えっ!?」
出し抜けに友人の申し出。僕の寝ぼけ頭は、いっぺんに覚醒した。
「今から家に帰って作業に掛かるから。出来上がり次第、順次そこに送ってやる」
友人はそう言うと、パソコンを指差した。
彼の申し出はとてもありがたい。飛び付きたいくらいだ。
しかし、彼はその為に貴重な休日を潰す事となってしまう。
その辺りを聞いてみると、彼は笑いながら言った。
「俺のバイトにもメリットになる。それにタダじゃないぞ」
「えっ?それって……」
「昼飯二日分。それで手を打ってやる」
そして、得意満面な顔で僕を見た。彼らしい気遣いに、こっちはいつの間にか嵌まってしまう。
「君には負けたよ……」
「労働には報酬をもって応じる。変に恩義を売るよりはマシだろう」
友人は帰って行った。
これで、自分一人でやる以上の物をルリに準備してやれる。
(結局、また友人に助けられる形になったか……)
ありがたいのだが、正直、複雑な気持ちだ。
困っている時には決まって手を差し延べてくれ、僕は必ずその手を掴んで助けられてきた。
唯、これは、正常な友人関係と言えるのだろうか。
違う。友人とは、対等な立場であってこそ友人であり、だからこそ言い難い事をもぶつけ合えるし、お互いを尊重出来るという物だ。
しかし、今の僕では対等なんて程遠い。ルリの件でも、自分でなんとかするなんて大見得を切っておきながら、結局、彼の優しさに甘えてしまった。
こんな調子じゃ、何れ、彼に見限られてしまう。
(とにかく、今回までだ。今回までは彼の手助けを借りるが、これからは自分一人で処理しなくちゃ……)
僕は、友人論とでも言うべ事柄を頭の中で導き出しながら、忙しくキーボードを叩いていた。
友人から最後のメールが送られてきたのは、日付が変わって月曜日になったばかりの時刻だった。
土曜日の夕方から送られ始めたメールは計四通で、問題数は全部で十問。これに、僕が作った問題を足せば三十問。これだけあれば、繰り返すのは可能だ。
(後は精査して、誤りを無くせば届けられるな)
そうして、実際に問題が出来上ったのは午前三時を過ぎていた。
気の張る作業からようやく解放されて安心したのか、僕はベッドに寝転がった後の事を思い出せない位、すぐに寝入ってしまった。