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「こんな日は部屋を出ようよ」
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「こんな日は部屋を出ようよ」中編-10

 僕は、自分という人間が時々嫌になる事がある。
 ほんの十数時間前は「自分やるべき事はやった。後はどんな結果でも受け入れる」等と楽天的な思考だったのに、今はまた、何時もの悲観論者となって悪い事態を、頭の中に場面として浮かべてしまう。
 夜中に思い浮かんだアイデアが、昼間に見返すとあまりの突拍子さに本人でも驚かされる如く、深夜という環境は、僕の脳に変な影響を与えてしまったようだ。

 ルリの家に出掛けるまでの間、僕はまた煙草を吸いつつ焦れていた。
 それは、大学の学食で友人から告げられた事に発端する。

「メ、メッセージを?」
「そうさ。手書きのメッセージを問題集に添えておくのさ」

 人が気分よく昼食を摂っているのに、こんな、余計とも言えるアイデアを挙げてきたのだ。

「なんでそんな事を……」
「教え子が試験に臨むんだぞ。従兄とはいえ、お前の励ましがあったらやる気も違ってくるってッ」
「そうかなあ……」

 僕には、ルリがそういう性格とは思えない。勉強に対する真摯な態度からすると、どんなメッセージも逆効果の様な気がしてならなかった。
 しかし、友人は僕の異論など気にも留めずに自説を押し付けてくる。
 そうして、僕は友人に「出来るだけやってみるよ」と、約束させられてしまった。

 僕は煙草を咥えたまま、目の前に置いた白いレポート用紙を見据えている。変な汗が滲んでいた。
 論文形式の文章なら、まだ何とかなるが、手紙のように綴るとなると言葉も浮かんでこない。

(もうちょっと、文字に馴れ親しんでおくべきだったな……)

 こうして、また僕の中に悲観論者が戻って来たわけだ。

 唯、悲観ばかりしている場合でないのも確かで、こうしてる間にも、出掛ける時刻は待っててくれない。
 追い詰められた僕は、仕方なく、思い付く文章を箇条書きにしてレポート用紙を埋めていった。

「ヤバい!出遅れたッ」

 何とか、メッセージらしき物が出来上がったのは、予定の時刻を大分過ぎてだった。
 僕は急いでルリの家へと走り出した。


「ごめんなさいね。また来てもらって……」
「気にしないで。今日は、いい物を持って来たんだ」

 恐縮する叔母に対し、僕は鞄から問題集を取り出した。

「明日から試験に、これで備えてもらえればと思ってね」
「でも、あの子、隠ったきり出て来ないわよ」
「いいよ。今は試験の方が大事だし。試験が終わったら、また謝りに来るから」

 叔母に後を託して、僕は帰路に着いた。
 正直、安堵した。ひとつの区切りを迎えられた事でそう感じていた。
 明日と明後日は試験日だから、出向いては却って彼女の邪魔になる。試験が終了するまで、三日の猶予が僕には与えられたわけだ。

(少し余裕を持たないと、まともな思考も働かないな)

 遊びでも買い物でも良い。
 とにかく、明日一日、頭を使わない状況に身をおく事が大事だと心に言い聞かせて、自宅へと向かった。






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