「こんな日は部屋を出ようよ」中編-11
火曜日
「あ〜、俺は駄目だな。夕方からバイトだから」
今日は何かに熱中しようとした僕の計画は、すぐに頓挫した。
友人を遊びに誘ったのだが、彼の平日が忙しいのをすっかり忘れていた。
「それよりナオ。昨日のメッセージ付き問題集は届けたのか?」
友人は、僕の落胆ぶりよりも、自分の成果を確認する事の方が大事らしい。
「ああ。君のおかげで、たくさん渡せたよ」
「そうか……良かったな」
答える僕に、友人は感慨深い表情を向けた。
「どうかしたの?」
「なあ、ナオ。やっぱり、想ってくれる人から励まされるのは良い事だよ」
「な、何を根拠に!」
「そういう意味だけじゃないって。人って、気に掛けてくれる人が居たら、自分でも信じられない位に頑張れるんだ」
「あの子は、そんなふうには……」
「誰にも想われてないってのは、殊の外惨めだぞ……」
その時、見せた友人の顔は寂しそうに見えた。
──どうしようか。
そう思いながらも、このまま帰っては、友人が居ないと何も出来ないのを認めている様で癪に障る。
何とか、一人で時間を潰す方法はないかと考えた。
(ゲームセンターなんか柄じゃないし……)
これといった物も思い浮かばぬまま、帰路の途中にある映画館へと入った。
観たい作品も無いので適当に選んだ。半分程埋まった客席でスクリーンに目を凝らしていたが、内容がさっぱり頭に入って来ない。
──誰にも想われないのは、殊の外惨めだぞ……。
代わりに、先程友人が見せた顔と文句が何度も浮かんでは消えた。
友人の高校生活が、今の彼からは想像出来ないくらい孤独だった事は本人の口から聞いた。
(ひょっとして友人は……)
僕のルリに対する観照は間違いで、自分と同じ様な境遇だと言いたかったのか。
だとしたら、彼はどうやって彼女の動向を知ったのだろう。相談した時も、僕は、かなりの部分を隠していたのに。
居ても立っても居られなくなり、僕は映画館を飛び出した。
結局、僕は思考を廻らす事から逃れられないらしい。
自宅までのバスの中で鑑みる。友人の言った事を仮定すると、彼女が“ある出来事”をきっかけとして、誰にも想われない学校生活を送っていたとする。
だとすれば、彼女は“ある出来事”を心に抱えたままであり、況してや記憶の片隅になどに押しやる事が出来るはずもない。
あの冷然な態度も、処世などではなく、状況に追い込まれて我が身を護る為、自然と表れた物ではないのか。
誰とも関われない事により、心の中を障壁で囲ってしまったのではないか。