第6話 一枚の絵-2
それが、もしかするとその絵に隠されてるかもしれないのだ。
睦美は迷ったが、答えが出る前に指先が先走って、慶のページをクリックしていた。
ページに繋がると閲覧履歴も残り、ここまで来ると後には引けずに絵も覗いて見た。
その時、言葉を失うような衝撃が、睦美の体中を走っていた。
その絵は、セミフォーマルなスーツを装い、脚を組んだ女性の絵だった。
それはあの日、慶の横に居た紛れもない睦美の姿だった。
ただ、驚いたのは自分が描かれた事だけでは無く、まるでその場でデッサンされたかのような、正確で緻密な絵だった。
顔は横を向いて良く分からないが、どことなく雰囲気が似ており、身体は髪型から服装、スカーフの柄に至るまで正確に描かれていた。
組まれた光沢のある黒い脚も官能的に表現されており、睦美に対する性的な意識も伺われる絵だった。
睦美は、これを描いてる慶の姿を思い浮かべると、蘇ったかのように再び胸が高鳴った。
自分の事を、正確に覚えていなければ描けない精巧な絵・・・・・それだけ睦美に対する慶の想いが強く感じられた。
そして、デッサンのモデルは容姿的に好みで無ければ創作意欲が湧かず、自分が選ばれた事に関しても特別な想いを感じていた。
そうなると、自分に母性を期待するよりも、一人の女として認知しているように思えてきたのだ。
『親子ほど離れた年齢・・・・・』
早まる気持ちを抑えながらも、慶に対する睦美の気持ちは、この想いでブレーキが掛かっていた。
実際、睦美には、慶の一つ上の21歳の大学生の息子が居た。
名は翔太と言い、慶と違い器用な性格で人当たりも良く、性別を問わずに人を魅了する人間だった。
顔も睦美に似て端正な為、異性には特に魅力的で、付き合いの方も思春期の頃から頻繁だった。
勉学、スポーツにも卓越しており、非の打ちどころのない息子だった。
それには、睦美の夫にあたる父親の影響があった。
夫は息子の翔太を溺愛しており、物覚えをついた頃から、さまざまな場所に連れては知識を吸収させたり、体を使わせながらは遊ばせたりして、学問や運動神経などを養わせていた。
その為、翔太が子供の頃から今に至るまで、自分だけ家族から除け者にされた感じがして寂しかった。
だからと言って、翔太との関係が冷めてるわけでもなかった。
ただ、母親としての母性を十分に注げないまま、自分の元を離れて行った感じがして心残りだった。
今、その母性の注ぐはけ口を、慶に感じていた。
どこか貧弱な見た目から、今にも壊れて行くようなか弱い人間のようで、守ってやりたい気持ちにもさせられていた。
しかし、その気持ちの先にある私欲を慶に求めそうで怖かった。
『色白の肌・・・・・細い身体・・・・・指先・・・・・そして・・・・・汚れの知らない若い身体・・・・・』
これ以上慶の事を想うと、あの日の列車内で襲った感覚が蘇ってきそうで怖くなり、すぐに気持ちを立ち切った。
睦美は、その気持ちの整理が付かぬまま、思わずサイトを閉じていた。
そして、無理にでも忘れるように自分へ言い聞かせ、残りの家事を必死にこなしていった。
しかし、その心中は複雑で、一枚の絵に隠された想いに、惹かれていくものがあった。
若い青年が、母親とも変わらぬ自分に想いを寄せながら、精巧に描がいた絵に・・・・・。
睦美は、その気持ちを抑えようとしても、満たされてない身体だけは、青い果実を求めようとしていた。
それを導く答えは、一枚の絵の中に合った。
それは・・・黒い誘惑・・・・・。