THANK YOU!!-8
長き眠りから、少女が還ってきた。
「・・・・ん・・・」
うっすらと、視界に入るのは白。
自分の部屋のものではない、見覚えのない天井。
ぼやける視界に、急に輪郭を捉え出した人の顔。
ボーッと見つめて、焦点が合うとそれが誰か分かった。
その人物の名前を言おうとして、口をゆっくり動かす。
しかし、出た声は、だし方を忘れたかのように小さく弱々しいものだった。
でも、目の前にいた人物は聞き取れた。
「・・・・あき、の・・。・・すずの・・。」
「瑞稀っ!」
「八神!」
自分たちの名前を呼ばれた二人は、不安になっていた心が一気に安堵に変わった。
力が、抜けるくらい。
「良かった・・瑞稀・・。心配したんだよ・・?」
「・・・ゴメン・・。」
未だにはっきりしない頭で、言葉を聞き取った瑞稀は素直に謝った。
秋乃の顔が、今にも泣き出しそうだった。
瑞稀の視界に、次に入ったのは自分を心配そうに覗き込む祖父母の姿と仕事場から急いで戻ってきたお兄ちゃんと慕う叔父の姿だった。
「瑞稀っ!」
「・・・あ・・れ・・おにい、ちゃん・・・?・・仕事は・・・?」
「お前が心配なのに仕事行ってられるわけないだろ!ったく・・!無茶して・・!」
「良かった・・・!本当に良かった・・!!」
祖母が、瑞稀に抱きついた。
当の本人は、自分の身に起きたことがイマイチ理解できてなかった。
すると、病院の先生が入ってきて、瑞稀の怪我をした足のことを説明するからと言って、家族は一旦病室を出た。
「・・・足・・?」
外科医に言われた事に、理解できなかった瑞稀は思わず起き上がった。
しかし・・
「っ!!・・〜っ!!!」
「瑞稀!!」「八神!!」
左足に、力を入れてしまった為に激痛が走った。
思わず体を丸める。
そんな瑞稀に、秋乃が手を差し伸べて背中をさすった。
拓斗は状況の説明をした。
「お前、あの倉庫から脱出しようとして木の板と窓蹴破っただろ?
そんときに左足・・膝から下までにいくつもの深い傷が出来たんだ。
とりあえず、止血も出来てるし化膿もしてないから大丈夫らしい。縫う必要もないって言ってた。傷による熱も出てないみたいだしな。」
そこまで冷静に言った拓斗は複雑そうな表情をしている瑞稀に、ちょっとからかう口調になり、「ちなみに倒れたのは、出血のせい。お前、血糖値限界値までしかないから怪我を多くすると貧血になるってさ」と付け足した。
瑞稀の表情を少しでも和らげるために。
拓斗の気遣いに気づいた瑞稀は、顔を伏せたが、すぐに笑顔で返した。
その笑顔を見た秋乃は安堵したのか瑞稀に抱きついた。
「わ・・!あ、秋乃?」
「・・・良かった。本当に・・。」
「・・・・うん、ありがとう」
瑞稀は秋乃の頭を撫でながら笑顔を保ち続けた。
その手が、震えている事に気付かせないように・・。
しばらくして、瑞稀の家族が戻ってきて、今日一日は入院して、明日の朝に検査を行なって異常がなければ帰る事になった。学校は明日と明後日を休むことになった。
家族が、着いていると言ったが瑞稀は大丈夫だからと念押しをして断った。
中岡先生に、他の生徒たちに自分が怪我したことを言わないで欲しいとの念押しもしておく。
秋乃はまだ居たいと粘ったが、もう8時になることもあり、強制的に帰らされる事に。
だが、明日の放課後にお見舞いに来る事は了承させられた。
それは、拓斗も全く同じだった。
安心させるように笑顔で皆を見送った瑞稀は、病室の扉が閉まると布団をめくった。
そして視界に映すのは、痛々しく包帯が巻かれた左足。
瑞稀の身体が、カタカタと小さく震え出した。