アバター-1
部屋に戻ると私は早速端末をＤマシーンに接続した。
そして孫悟空の金冠のようなヘッドリングを頭に被った。
Ｄマシーンと言っても、昔の女子高生の弁当箱のように楕円形の小さな箱で元々はスィッチもなにもない。
ヘッドリングが拾った脳の指令をそこに伝えて、オンラインのゲームスペースに行ってプレイするものだ。
私はゆったり座った。すると視覚が効かなくなり、辺りが闇になった。
目の前に眼鏡をかけた女性が現れた。
若い女性の姿をしているが、どこか機械的な感じがする。
その女性はデスクに座っていて、私に問いかけた。
「冷凍冬眠者のハヤテさんですね。
今あなたはリアル・ゲームをしようとしています。
あなたは６０才以上の独居老人ですからナビゲーターが必要です。
ナビゲーターを用意していますか？
端末のジャックに家庭に備え付けている家電製品のメモリチップを差し込めば、十分ナビゲーターの役割を果たします。
では待っていますのでご用意下さい。一度現実場面に戻します」
現実場面に戻ってから私は家電製品を捜した。
確かにキッチンマシーンにもクリーニングマシーンにもメモリーチップが差し込んである。
他にライトニング・マシーンにもあるにはある。
これらはすべてロボット機能を持っているので、ナビゲーターとしての最低知識は持っているのだ。
だが、Ｄマシーンのナビができるのはこいつらではない。
ひ孫娘のミアが遺していってくれた冬眠覚醒係りのロボットのメモリ・チップでなければ役に立たないと、彼女の生前メッセージが教えてくれていたので、予め抜き取っておいてあったのだ。
私はポケットからチップを出して端末に差し込んだ。
再び現実の視界が閉ざされて、先ほどの女性が現れた。
「ナビゲーターを用意しましたね。それではナビゲーターに必要な情報を伝えます。
後はナビゲーターの指示に従ってください」
眼鏡の女は消えた。代わりにオモチャの子豚のキャラクターが現れた。
「しばらくです、ハヤテさん。
冬眠から覚醒したときにお世話した覚醒係りのロボットです。
行政サイドから配給されたアバターがこの姿ですので、我慢して下さい。
名前はピッギーと言います。
さて、こちらに来て１週間以上経つのにオンラインにＤマシーンを接続したのは今日が初めてなのですね。
それまではこの端末はラジオ放送と２次元デスプレイだけで情報を伝えていたと思いますが、これからはもう少し便利になります。
ここで４つお知らせがあります。
１つ目。私は人格再生プログラムによって最初に作られた再生人格です。
ひ孫のミアさんに見込まれて、あなたの冬眠中の管理や覚醒後のナビゲートをするために特別に用意された人格です。
２つ目。私は孫のトッキーさん、ひ孫のミアさんのメッセージを預かっていましたね。それは覚醒時にすでにあなたにお見せしました。
ですが、後ほど是非ミアさまに会って頂きたいと思っています。
いわゆる墓参りです。
ミアさまが亡くなられる前には人間に対する人格再生プログラムが認められていましたから、生前の各時代のミアさまにお会いになることができます。
もちろん会話をすることもできます。
疑問なことはなんでも答えてくださいます。
でも、それは新しい生活に馴れた頃を見計らってご案内したいと思いますので暫しお待ち下さい。
３つ目。このＤゲームを作った会社は３５年前に倒産しています。
ゲームは個人で楽しむ体感ゲームでしたが、複数参加のリアルゲームの台頭で衰退したからです。
その際Ｄゲームで使用されていた仮想空間スペースは現在リアルゲームの龍の谷と重なっています。
つまり一つの敷地に２つの建物が建っているようなものです。
スペースが売却されてしまったからそうなりました。
けれども周波数が微妙にずれているので、パラレルワールドのようになって、２つの世界は競合しません。
ですから安心してＤゲームを楽しんで頂けると思います。
なお、このことは行政側もリアルゲーム側も知りませんので，敢えて内密にしておいて良いと思います。
４つ目。独居老人法に基づき、オンラインの体感システムには必ず性欲処理プログラムが入力されることが義務付けられています。
その処置がたった今このＤマシーンにも施されました。
これは拒否することができない強制的なものです。Ｄマシーンにはドリーム・プログラムやストーリー・プログラムというのがありますが、その中からセックスに関連した内容があればそれを実際に体感させて性欲を処理するようになります。
もちろん本人の内分泌の状態や健康状態を検査して、精子が十分な量溜まっていると判断したとき、そのプログラムが実行されます。
なお、射精の快感はオンラインの状態でありますが、実際の射精は現実世界に戻ってから時間差でおきますので、下着を汚す心配はありません。
以上です。何か質問はありますか？」