二人一緒にいるための約束-1
(あれは彩姉じゃ.....)
浜辺で犬の散歩をさせていた嶋野駿(しまのしゅん)は、砂浜に座って海を見ている女性を見つけた。
「彩姉!こんな所で何してるの?」
駿は近づいて行って声をかけた。
「なんだ...駿君か....」
振り返って駿を見た嶋野彩(しまのあや)はがっかりしたような顔をした。駿は彩の横に座って
「何かあったの?」
そう声をかけた。
「またフラれちゃった....」
彩が淋しそうに笑うと
「彩姉の魅力に気づかないようなバカなら気にする事ないよ!」
「駿君は優しいね.....」
「そんな事ないよ....」
「駿君の彼女になれたら幸せなんだけどね!」
そう言って笑う彩に駿は何も言えなかった。
彩は19歳で駿を産んだ駿の母の12歳離れた妹である。しかし叔母と言っても7歳しか離れていないので、駿にとって彩は姉のような存在だった。駿は彩の事が好きだった。だから駿は彩の言葉に何も返せなかったのである。
「こんなオバサンじゃ駿君のほうで願い下げか....」
そう言って笑う彩に
「そんな事ないよ!彩姉は綺麗だし....優しいから....僕は彩姉が好きだよ!」それは駿の精一杯の告白だった。
「ありがとう!そんな事言ってくれるの駿君だけだよ!」
彩は駿の肩を抱き寄せた。
彩は男性恐怖症なのである。彩がまだ小学生の頃に、ロリコン男に公園でいたずらされてしまった。幸いにも警邏中の警察官が通りかかったので事なきを得たのだった。それ以来、彩は男性恐怖症になってしまった。このままじゃいけないと男性と付き合ってみるのだが、どうしても打ち解けられずに別れを告げられる結果になってしまうのである。
「駿君はどうなの?彼女は出来たの?」
「今はそんな事考えられないから.....」
「そうね!受験だもんね!もうすぐ駿君も大学生か....」
「受かればの話しだけどね!」
「駿君なら大丈夫よ!.....私も年を取る筈ね!」
「何言ってるんだよ!彩姉はまだ若いじゃないか!」
「もう25よ!四捨五入すれば30よ!どんどんオバサンになっていくわ!」
「大丈夫だよ!彩姉にもきっと現れるよ!運命の人が!」
「赤い糸が切れていなければの話しだけどね!」
「またそんな事言う!」
「ゴメンゴメン...寒いし....もう帰ろうか?」
「うん.....」
暦の上では春といえ2月の浜辺は寒かった。
シングルマザーだった母親をまだ幼い頃に亡くした駿は母親の実家である彩の家で育てられた。駿の父親に関しては母親が何も言わなかったので誰も知らない。しかし5年前に亡くなった祖父が父親代わり、昨年亡くなった祖母が母親代わりとなって愛情込めて育ててくれたので淋しさを感じる事はなかった。祖父母を亡くしてからは、彩が駿の世話をした。なれない家事も今では板についてきた。自分の事よりも駿を優先させる彩を見ていて、彼氏が出来ても長続きしないのは自分に原因があるのではないか....そう思うと彩に申し訳なく思う事もあったが、彩と二人でいられる幸せを感じずにはいられない駿だった。
「ありがとう!駿君!」
「何が?」
駿が不思議そうに言うと
「話しを聞いてもらって....少しスッキリしたよ!」
彩はそう言って笑った。
「それくらいでいいならいつでも話しを聞くよ!」
駿が彩に笑いかけると
「じゃぁ...またお願いね」
彩は心からの笑顔を見せた。
「すぐにご飯の用意するから待っててね!」
彩はそう言って夕食の準備に取りかかった。
「何か手伝う事ある?」
駿が彩に声をかけると
「今日はいいわ!今は受験勉強に専念しなさい!」
「わかった!」
駿はそう返事して部屋に向かった。来週大学の二次試験が行われるため最後の追い込みの時期だった。センター試験の結果も良かったので、大丈夫だろうと先生も言ってくれているが、駿は気を抜かないようにしていた。