不安-2
放課後、部活を終え、格技館を出たジュンはそこで足を止めた。真琴が格技館前でジュンを待っていたのだ。
ジュンは止めた足をゆっくりと進め、真琴の方に向かった。真琴の前に立つと、俯き黙るジュンに、真琴は昨日のことを何も言わず、ただ
「帰えろ｣
っと優しく言った。
その優しい声にジュンの心は揺れる。
真琴が優しい分だけ、心の隅で信じきれない自分が虚しく、そして嫌な自分だと激しく思ってしまう。
彼女の優しさに触れる度にジュンは信じきれない彼女をジュンは恥じるが、どうしようもない、
もう何が本当の彼女なのか分からない、彼女が好きであった自分も分からない、ジュンは自分の気持ちが黒く濁るのを感じた。
「……ないんです｣
「え｣
小さい声で聞き取れないジュンに真琴は困惑する、ジュンはもう一度聞こえるように言った、彼女の目を合わせずに。
「分からないんです｣
真琴は更に困惑した。
「何が分からないの？」
「自分が濁っていて、あなたの美しさも、優しさも、見れなくなるんです。
先輩のこと好だけど、その分不安が募るんです、僕の想っている先輩が本当は違っていたらって……
先輩を信じれない自分が虚しくて、哀しくて、辛くて、だから、今先輩と向き合うと、自分が崩れるようで………
……少しだけ、僕に時間をくれませんか？
少し整理したいんです。自分の気持ちに」
真琴の顔は強張り、俯くジュンの目に映る彼女の手は震えていた。
真琴の顔は強張った顔から次第に目から涙が溢れだし、顔が崩れ始めた。
「……なんで……、私のこと嫌いになったの？」
真琴の涙混じりに震えた声は弱々しく、ジュンの男心を燻る。
「違います、好きです。
でも、違う自分も居るんです。怖がりな自分が居るんです、身勝手だって分かってます。先輩を傷つけているのも、でも、今前に進むのが怖くて、だから……」
真琴は崩れる声でジュンに問い掛けた。
「私の噂が原因？」
小さく弱々し真琴の問い掛けにジュンは邪念を払うように言った。
「違いますと言えば嘘になります、でも、僕自身色々あって、今の僕はあなたと真っ正面から向き合えないんです。
気持ちの整理がついたら必ず会いに行きますから、それまで待っていてもらえませんか？
本当に弱くて……ごめんなさい」
ジュンは目をつぶり、真琴を振り切るように、真琴から離れていった。その瞬間泣き崩れる真琴。
格技館から出てくる部員は真琴の姿に驚くが声は掛けられず、ただ眺めるだけだった。
校門を出、早歩きで下校するジュンの背から、男の声が呼び止めた。
「佐々木、佐々木!」
ジュンは聞こえてくる呼びかけに最初無視をしたが、何度か呼び掛けられ仕方なく足を止めた。
「おい佐々木、何度も読んだんだぞ。」
「鈴木か、なんだよ。帰りの方向違うだろ」
鈴木はジュンと同じ剣道部員に所属し、クラスは違うが親友に近い友達と言えた。
鈴木はジュンが自分に顔を向けると、一旦校舎がある後ろをちらりと見て言った。
「格技館前で誰かが泣いていたけど、お前と関係あるのか？」
「鈴木、それ聞くために僕を呼んだの？だったら話すことは無いよ」
「いや、違う。ただ気になってな」
「で、何だよ用件って」
「ああ、お前の幼馴染の佳奈の事なんだが、亜美が佳奈のことで気にしていてな」
ジュンは以外な名前を聞いて不思議そうに言った。
「亜美って角田さんのこと？」
「ああ、角田亜美だ」
「何で角田さんがでてくるんだよ」
「知らなかったのか、俺と亜美は付き合っているんだよ、お前は知っていると思ったんだが」
「いや、聞いてなかった、そっか角田さんと鈴木が……」
以外な真実にジュンは頷き、鈴木は急かすように言った。
「それでだ、佳奈の事なんだが、堀田って奴と付き合っていることは前に伝えたよな」
「うん」
「堀田って奴かなり素行が悪いらしいんだ。嫌な予感がしてな、今日堀田のクラスの奴に聞いたんだけど、
堀田の奴、俺の彼女はペットみたいなもんだ、とか言っていたらしいんだ。それって佳奈に対して」
鈴木はその後の言葉を控えた。
ジュンは一瞬顔が引き攣り、固まった。
「佳奈の事、お前に任せて良いか？お前なら佳奈を傷付けない形で解決出来ると思うし、お前の幼馴染だろ、友達とは違う、だからお前が佳奈を何とかして欲しいんだ。
まだ、佳奈が堀田にどんな事をされているかは分からないし違うかもしれない、でも今の佳奈は元気がない、亜美が心配してるんだよ、佐々木、佳奈の事頼んで良いか？｣
ジュンは頷き、俯きながら言った。
「分かった。佳奈のこと、何とかしてみるよ」
「俺に出来る事があれば何でも言えよ、俺も手伝うから」
「ああ、その時は頼むよ」
「うん……何かごめんな、今言うべきじゃなかったかもしれないけど、早い方が良いかと思ってな」
「いや、言ってくれて良かったよ。僕も佳奈のこと気にしてたから」
「じゃ、頼んだぞ」
「うん」
鈴木は手を上げジュンに挨拶し、反対側の道へと帰っていく、ジュンは鈴木の背中を見詰めながらため息を吐き、歩き始めた。