恋愛-4
授業が終わり、教室が慌ただしくなった頃、佳奈が教室に戻って来た。佳奈の表情は暗く、重苦しい雰囲気を漂わせていた。ジュンは佳奈の表情を見て、声を掛けようと近づこうとするが、以前の自分に対する佳奈の態度が頭を過ぎり、体が止まる。
今までと違う佳奈の態度、自分を敵対しているかもしれない疑問、今後幼馴染の関係が続かないかもしれない恐怖。
一ヶ月前とは違い、自分の非が分からず、どう声を掛ければ良いか分からない。ジュンの思考が混乱する。
佳奈は自分の席に座ると、机に体を突っ伏した。
ジュンは今だ佳奈に声を掛けることが出来ない、ふがいなさがジュンを襲うが動けない。
そこへ、亜美が心配して佳奈に声を掛けてきた。
「佳奈、佳奈」
亜美がうずくまる佳奈の肩を二三度揺さぶると、佳奈は体を起こした。
「ん、何?」
寝ぼけたそぶりをする佳奈であるが、亜美はそれがごまかしであるのを見破るように、佳奈の背中をさすり言った。
「佳奈、最近元気ないよ、大丈夫?」
「眠いだけだよ、ありがとう亜美ちゃん」
「佳奈、佐々木のことで落ち込んでるの?」
「え…ジュンちゃん……」
「佐々木、三年の槙野って先輩と付き合ってるって噂じゃない、それで佳奈落ち込んでるのかと思って」
顔がひきつる佳奈、ジュンに彼女がいる。初耳だった。
「佳奈、どうしたの?もしかして知らなかった?」
焦点が合わないまま佳奈は体裁した。
「あ……知ってたよ、でも人から言われるとやっぱりショックで」
「佳奈……」
亜美は佳奈の頭を撫で、宥めたが、佳奈はやり場のない悲しみと怒りを覚えていた。逃げられない屈辱と、片思いの裏切り、絶望が襲う。
佳奈の頬には綺麗な涙の線が流れていた。
「佳奈、辛いけど乗り越えないと……でも佐々木も佐々木よ、よりによって槙野に手を出すなんて、槙野ってかなり酷い噂がある先輩じゃない、最近では推薦取るために先生と寝てる噂があるし、きっと本当の話しだよ」
「そうなんだ、そんな噂があるなんて知らなかったよ。槙野先輩って酷い人なんだね……」
愛想笑いで自分の感情を隠しながら佳奈は言う。
「うん、美人だからって自分の美貌で何でも手に入れる最低な女らしいよ、佐々木は騙されているのよ、でも佐々木も目を覚ますわ」
「だと良いけど……」
「あっ次の授業始まっちゃうよ、佳奈、元気出して」
亜美はそう言うと佳奈の席から離れていった。
佳奈は深いため息をついて涙を拭いた。
さっき亜美に本当のことを言えば良かったらと思うが、屈辱を知られるのが辛くやはり言えない。逃げ場がない、辛い現実が襲う、そしていつも頼ってきたジュンも自分を見捨て、よく分からない女の物になってしまった。もう、誰も自分を助けてくれない。ここから居なくなりたい、死んでしまいたい。健全だった彼女の心は醜くやつれていった。
一日の授業が終わると、ジュンは意を決して佳奈の所へ向かった。佳奈の前に立ちジュンは俯き言葉を詰めらせながら言った。
「佳奈、その、最近どうしたんだよ、元気ないし……それに僕の事避けてるみたいだし……その、何かあったの?
それとも僕が佳奈に何か嫌なことでもした?傷付けなら謝るよ」
佳奈はジュンのウジウジした態度を睨みながら息を吐いた。
「佐々木くんには関係ないから、君は彼女のことだけ気にしてれば良いじゃない」
あの日見た佳奈の鋭い睨みがジュンを攻撃し、刺激する。
「佳奈……」
「私気分悪いから帰るね、それともう私に声掛けないでよ」
佳奈はそう言うとジュンから去って行った。
完全に嫌われた。ジュンの中での佳奈が消えていく。
あんなに純粋で可愛かった佳奈はもういない。今日一日たまたま気分が悪くて当たったのではない、佳奈の態度はもう何日も変わらないのだ。もう佳奈との幼馴染の関係は終わった。何故こうなったのかも分からない、ただ佳奈の後ろ姿を見てジュンは寂しさを感じていた。