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「こんな日は部屋を出ようよ」
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「こんな日は部屋を出ようよ」前編-3

「ところでさ、中学生だろ?姪っ子って」
「ああ、三年生だよ」
「顔は?可愛いのか」
「はあ?何それ」
「だってさ、年上の異性に憧れる年頃だろ」

 僕は、僕の目の前で嬉々とした表情を浮かべ、自説を展開する友人の中に見た、異質な嗜好に嫌悪感を持った。
 あの子の事を、異性という目で見るなんてあり得ない。 そんな考えを持つこと自体が不浄だと思わせるくらい、あの部屋でのルリは厳かなオーラに満ちていた。

「幾ら何でも、そんな感情はないよ」
「勿体ない!中学生ともなりゃ、そういう事を覚えたい盛りだろ」

 どうも友人は、自らの妄想を拡大解釈させる傾向が、言葉から読みとれる。 皆が皆、自分と同様の嗜好だと信じているみたいだ。

「あの部屋で勉強するあの子を見たら、とても、そんな気持ちにならないよ」
「そんなもんかなァ……」

 友人は、まだ何か意見があるようだったが、僕には、これ以上の論及は必要なかった。
 あの子が、そんな感情を抱くはずがない。 もし、仮に年上への憧れがあったとしても、それは僕に対してではない。 その理由は、あの部屋の出来事が物語っている。

(そんな甘い物じゃない。 あの態度は、拒否の表れだ……)

 僕は、友人の言ったことを頭から排除した。

 その日の夜、 僕は叔母に連絡を入れた。 用件は昼間、友人が僕に言った通り、家庭教師の必要性について。
 僕は叔母に、ルリの学習態度や指導に対する理解力、そして、僕が勉強時間中に、何ら役に立っていない事を伝えた。
 これで家庭教師は馘だ──そう思った。 良い収入源だったけれど、これ以上、貰い続けるのは心が咎めた。
 ところが、受話器からは叔母の笑い声が聞こえてきた。 僕が、理由が解らず黙っていると、次に甲高い声が早口でまくし立てて来た。

「ナオが教えてくれるようになって、うち子の成績が凄く上がったのよ!」
「えっ……?」

 叔母が言うには、家庭教師を受ける前のルリは、学年百位辺りをウロウロしていたらしいが、先日の模擬試験では、彼女より成績上位者は十人にも満たなかったそうだ。

「だから、ナオには感謝してるのよ!」

 結局、思惑は見事に外れてしまった。 これで、しばらくは収入も途切れない。 でも、僕の中の鬱積は益々酷くなった。






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