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「こんな日は部屋を出ようよ」
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「こんな日は部屋を出ようよ」前編-2

「あの……」

 声に合わせて、僕の目はルリを捉える。 椅子に浅く腰かけて、背筋を軽く伸ばしている。 問題につまっても、姿勢が乱れる素振りも見せない。

「ああ、ここは……」

 ルリは、僕が与える最低限の手がかりで、止まっていた手を再び動かし始めた。
 僕はそれを見届け、また椅子に腰掛けて再び呼ばれるのを待つ。 この繰り返しで時間は過ぎていく。

「それじゃ、また来週」

 家に帰るまでの道すがら、このところの僕は、何時も同じ事に頭を廻らしていた。
「果たして、あの子に家庭教師が必要なのか」という疑問だ。
 僕の友人にも、家庭教師をバイトとしているコがいて、彼等は総じて「生意気なガキに勉強やらせるのは骨が折れる」と、零していた。
 僕も、教える前まではそう思い、昔の教科書を引っ張りだして教え方の研究をしたりしたけれど、殆ど必要なかった。
 彼女は、わずかな手助けだけで全てこなしてしまう。 いや、手助けさえも、本当は無用なんじゃないかと思わせる程、勉強が出来る。

(それに、あの態度って……)

 彼女が見せる、勉強中の醒めた横顔。 それに、言葉を交わす際の余所々しさ。 もう数ヶ月も経つのに、最初の頃とまったく変わっていない。
 幾ら、此方がフランクに話しかけようとも、彼女は靡くことがない。 まるで、見えない障壁で、僕との隔たりを保っているように思われた。
 あれは、僕に対してだけなのだろうか。 学校に於ても、誰も寄せ付けない態度なのか。
 何時も、この疑問を帰結させようと熟慮するのだが、結論を求めるには判断材料が少な過ぎて、保留のまま自宅に帰り着いてしまう。

 こうして僕は、何時も釈然としない気持ちを抱えたまま、帰路についていた。





「どんな感じ?そっちは」

 講義を待つ教室で、同じ家庭教師をやる友人が訊いてきた。 彼は僕とは違い、斡旋会社に登録していて、中学生と高校生を一人づつを割りふって、土日以外を指導に充てている。

「全然楽だよ。 大人しいし、無駄口は利かない。 呑み込みも早いから」

 僕の寸評に、友人は強い羨望の言葉を並べ立てた後、短い沈黙を置いて「それって、家庭教師必要か?」と感想を言った。 彼は、僕が何時も思っている事を代返していた。 家庭教師が必要なのかを、叔母に相談すべきかと何度も悩んだ。
 しかし、与えられる報酬が魅力的なために、つい、今までお座なりになっていたのだ。

(やっぱり、相談しなきゃな……)

 後ろめたさが心に湧き上がった。
 そんな、僕の心境を読んだのか、友人は話題を変えた。


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