初めてのライヴ-1
「ゴメン待った?」
待ち合わせの場所に行くと麻里がもう来ていた。
「ううん!私も今来たところ!」
それから二人でライヴハウスに向かって歩き始めた。そのライヴハウスでは毎年三月に抽選で選ばれた七組と前年の優勝者の八組でミニライヴを行い、観客の投票で選ばれた一組が翌日ライヴを行う"祭り"を行っている。その"祭り"に姉・美里(みさと)のバンドが抽選で選ばれたので麻里と観に行くのである。姉は高校の先輩とバンドを組んでいてキーボードの担当である。短大に進んだ先輩が就職が決まってバンド活動を辞めるために、今回で解散になるので、私達は応援に行く事にした。
ライヴハウスに着くと、姉達が浮かない顔をして集まっているのが見えた。私達は姉のほうに近づいて行った。
「お姉ちゃん...どうしたの?」
姉は私の顔を見て、
「あぁ美咲かぁ...」
姉は沈んだ声で言った。
「香奈(かな)が風邪ひいて声が出なくなっちゃって....」
「えっ...マジで....」
香奈さんはギターとヴォーカル担当なので、香奈さんの声が出ないとなると....
「やっぱり辞退するしかないか.....」
ベース担当でリーダーの歩美(あゆみ)さんが呟いた....
「そうするしかないのかなぁ....」
ドラム担当の菫(すみれ)さんも呟いた....
「美咲の歌...聞きたかったなぁ....」
みんないっせいに麻里を見た。
「えっ?ゴメンなさい...美咲が作った歌....聞きたかったなぁって.....」
麻里が申し訳なさそうに答えた。
「あっ!その手があったか!美咲お願いね!」
姉が私の肩を叩いた。
「えっ?」
私が驚いていると、
「美咲ちゃんお願い歌ってくれない?」
歩美さんが両手を合わせて頼み込んできた。
「本当に私が歌ってもいいんですか?」
「何言ってるの!美咲ちゃんはトワイライト・ブルーの一員じゃないの!」
トワイライト・ブルーとは姉達のバンドの名前である。
「そうよ!歩美の言う通り!私達はずっと美咲ちゃんの事をメンバーだと思ってきたんだからね!ねぇ香奈?」
香奈さんは黙って頷いた。私はこのバンドの作詞担当だった。少しだけだが作曲もさせてもらった。これまで何度も一緒にやろうと誘われていたのだが断っていた。
「美咲ちゃん本当にいいのね?」
私が頷くと、
「最後にやっと全員揃ってステージに立てるんだよね!」
歩美さんは嬉しそうに笑った。
「何を歌うんですか?」
「最初はお決まりの...[ポテンシャル]...次は...[初恋]...[好きでいてもいいですか]...[if]...[また....いつか....]....この5曲かな...」
[ポテンシャル]は、気づいていないかもしれないけど、自分の潜在能力....可能性を信じて前を向いて歩いて行こう!というノリのいい応援ソングだ。
[初恋]は初恋をテーマにしたアップテンポな歌。
[好きでいてもいいですか]は片思いをテーマにしたスローバラード。
[if]は、ある小説を読んで作った歌で、失恋した悲しみを歌った歌だ。この歌は私が作詞だけでなく作曲もさせてもらった。
[また....いつか....]は、それぞれの道に進んで離れても、私達はずっと友達だよ!っていう最近作ったばかりの新曲だった。
「えっ!?[if]は.....」
私が戸惑ったように言うと、
「いつもは香奈が作曲した歌なんだけと....今日はね!」
歩美さんが笑顔で返してくれた。
「えっ...でも....」
私が躊躇っていると、
「忘れたの?美咲を一番熱心に誘っていたのは香奈さんでしょ!」
「美里の言う通りよ!美咲ちゃんと一緒にステージに立てる事を一番喜んでいるのは香奈なんだよ!ねっ香奈?」
歩美さんは香奈さんを見た。
「私の事は気にしないで...美咲ちゃんの自由に歌っていいんだからね!」
香奈さんがかすれた声で言ってくれた。
「ハイ!宜しくお願いします!」
「こっちこそ宜しくね!香奈の言う通りステージでは美咲ちゃんの好きなようにやっていいんだからね!」
歩美さんはそう言って、私の背中を叩いた。