初めてのライヴ-4
私は息が続く限り叫び続けた。一瞬観客の視線が私達に向けられた。
「みんな行くよ!!」
私はメンバーに合図を送った。みんなはハッと気づいたように私に続いた。私はダンスを封印して、歌う事に集中した。少しばかりのフリと歌声で曲を表現した。
「陽太の言う通りになったな!俺達が持っていった客を一瞬で取り戻されてしまった....」
ステージを見ながら、敦が陽太に話しかけた。
「まさかこれほどとは.....俺も思わなかった....豊かな声量....伸びのある歌声....醸し出される表現力....それに天性の人を惹きつける魅力....完璧じゃないか....何で今まで歌わなかったんだよ....香奈さんが熱心に誘ったはずだよ....あっちゃんは知ってたの?」
「香奈から...美咲って子は凄い....私なんか比べものにならない位に....絶対メンバーに入れたい....って聞いてたけど....俺の想像以上だよ!!彼女は!!」
「もしかすると...俺は....とんでもない子の心に火を付けてしまったんじゃ......」
「陽太...後悔しているのか?」
「いや!逆に燃えてきたよ!俺...負けたくない!!」
「それでこそ陽太だ!俺が見込んだベーシストだよ!!」
敦は陽太の背中を叩いた。
「痛いよ!あっちゃん!」
「ゴメンゴメン」
二人はステージから目をそらさず笑顔で会話していた。
一曲目が終わって、リーダーの歩美さんが口を開いた。
「トワイライト・ブルーです...みなさん驚いているんじゃないですか?....でも....一番驚いているのは....私達です....美咲!どうして今まで隠してたの?」
「何をですか?」
「ヴォーカルとしての才能よ!!」
「今まで歌う事に興味なかったから.....」
「勿体無い...でも良かった....一緒にやれて.....」
「ありがとうございます!」
「実は...私達の歌を作詞していたのは美咲なんです....だから....ずっと美咲は私達....トワイライト・ブルーの一員だったんです!.......それでは二曲続けて聞いて下さい!」
二曲目は会場全体が一つになって盛り上がった。
三曲目は逆に私達の歌に聞き入ってくれた。
三曲目が終わって、歩美さんのMCが始まった。
「次の曲は美咲が作曲もした曲です。少し古い曲ですが聞いて下さい!最後は一番新しい曲です!」
この歩美さんのMCの締めで4曲目が始まった。
この4曲目の[if]は、小説を読んだ後、想像だけで作った曲だ....作った当時..録音したのを聞いた時....曲の世界を表現しきれていないのに愕然としたのを覚えている....やはり頭の中だけでは表現出来ないのか....自分の力不足を痛感した....しかし....今は違う....今なら歌えるはずだ....失恋を経験した今なら....私は心を込めて歌った....
歌い終わっても会場は静まり返っていた....もしかして....ヤッてしまった?....私は怖くて顔を上げられなかった....しばらくして拍手が起きた....顔を上げると....涙を拭いている女性の姿が見えた....私の歌に感情移入してくれた....その事が何より嬉しかった....
最後の曲はみんなで明るく歌いきった。
「みなさん私達に投票して下さいね!」
歩美さんのその言葉を最後に、私達のライヴは終わった。