下校-4
「それと、叔母さんが心配してたよ。最近のジュン坊は元気がないって」
「母さんが……」
「余り叔母さんに心配掛けさせないでよ、叔父さんがいないんだから、可哀相な叔母さん」
ジュンは白けた顔をして言った。
「父さん、転勤だから。
死んだか離婚したような言い方しないでくれます」
「あら、ジュン坊は女心を知らないのね」
ここ一ヵ月を振り返り、知ってたまるか、と思うジュンだが、環に愚痴も言えず、話題を少し変えざるをえなかった。
「そう言えば、母さんが居ないけど、何処に行ったの?」
「村の集会だって」
「集会か、夜遅くまで帰って来ないな、母さん」
「うん、叔母さんもそう言ってた。だからジュン坊の面倒みてあげてねって頼まれたから、ジュン坊、ご飯何が食べたい?」
「……」
ジュンの思考が止まる。環が夕食を作る!有り得ない、何か裏がある。そう思える。
ジュンは環に言った。
「タマ姉、何かあるの?夕食作るなんて初めてでしょ」
環はニッコリ微笑み、返した。
「ジュン坊が心配なのよ、それに東京では私、一人暮らしだから料理は得意なのよ」
「じゃ、ハンバーグ」
ジュンは子供っぽく疑いの目で言う。
「いいわ、ジュン坊、ご飯作るから、着替えてきなさい」
あっさり、ハンバーグが通った事にジュンは驚きながら、環に返事をして、二階の自分の部屋に上がって行った。
環は東京の大学に通っている。高校は女子高でお嬢様学校に通っていた。つまり、環はお金持ちのお嬢様なのだ。だが、環は子供の頃から男気質でやんちゃっ娘であり、そのせいで息苦しい実家よりも従姉妹のジュンの家に厄介になることが多くなり、高校に入る前の環はいつもジュンを泣かす女番長であった。環の親は、そんな男気質を直す為、環に女子高に通わせたのだが、そこで女番長はなくなったものの、息苦しいお嬢様学校や、東京の大学、そして実家のような、いかにもお嬢様です、と振る舞う所には、環は真に嫌うようになっていった。そして、長期休憩の日は、ジュンの家に来るようになっていったのだ。
環は女子校で男気質は解消したものの、その分、女子校特有の女の武器を身に着け、自分の思うように物事を動かす力を手に入れていた。ジュンにとっては、怖いお姉さんから、本当に怖いお姉さんと変わり、ジュンは完全に環に逆らえなくなっていた。