投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

「ふたつの祖国」の最初へ 「ふたつの祖国」 6 「ふたつの祖国」 8 「ふたつの祖国」の最後へ

序編-7

「ですから、課長にお願いに来たんです」
「私に?」

 島崎が、強く頷いた。

「元々、お互いを煙たい存在と思っている係が手を握るんですから、予め釘を刺しておく必要があります」
「その憎まれ役を、私にやれと言うんだな?」
「はい」

 加藤が再びニヤリと笑う。

「君は、言い辛いことをズバリと言うね」
「現場での話なら自分等で処理できますが、それ以外の事は……」
「高橋君に、音頭取りをやらせるんだな?」
「ほ、本当か!島崎さん」

 高橋の顔が一気に蒼褪めた。
 事前の説明では、そんな話を聞かされてなかったからだ。
 しかし、島崎は表情を崩さずに話を続けた。

「ええ。課長に命令いただければ、後は係長同士の調整で済みますから」
「なるほど……」

 加藤が頷く。
 上からの命令とあらば、互いに下手なことは出来ない。そして、上役自らの方針転換とすれば面子を立てることが出来る。

(自分の考えを通すために、上を出汁にするとは……)

 加藤は、島崎の策士ぶりに感嘆した。

「解った。組織犯罪対策係には、私から話しておく」
「宜しくお願いします」

 何とか、課長の許可を得られた。高橋と島崎が、立ち上がって一礼する。

「高橋君」

 加藤が言った。

「は、はい!」

 高橋は、固まっている。

「良い部下を持ったな」
「はい!島崎さんは、我が強行犯係のナンバーワンですから」
「この上司あっての、この部下と呼ばれたいものだな」
「はッ!ありがとうございます」

 どうやら、皮肉も通じないらしい。加藤は島崎の方を見た。

「どの程度の規模を望んでいるんだ?」
「班単位でいいと思います。あまり大人数だと、迅速さと柔軟性に欠けてしまいます」
「解った。一両日中にやっておく」

 島崎逹は、課長の部屋を後にした。

「私が、あの戸田係長と渡り合うなんて……」

 途端に、高橋の口から生気のないため息が漏れた。これから先、自分を待っている出来事を考えたからだ。
 組織犯罪対策係々長、戸田憲一、46歳。
 昇級試験だけで今の地位になった高橋と違い、実績も兼ね備えた叩き上げ。
 犯罪組織と相対するために、自ずとその容貌や言動が粗野に思われている。
 “荒くれ者の集団”と影口を叩かれる係の長との交渉は、高橋にとって苦痛以外の何物でもなかった。
 島崎は、そんな高橋の落ち込み様が可哀想になった。

「あまりにごり押しなら、私に振ってもらって構いませんよ」「ほ、本当か!島崎さん」

 途端に、高橋の顔に生気が戻った。


「ふたつの祖国」の最初へ 「ふたつの祖国」 6 「ふたつの祖国」 8 「ふたつの祖国」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前