序編-7
「ですから、課長にお願いに来たんです」
「私に?」
島崎が、強く頷いた。
「元々、お互いを煙たい存在と思っている係が手を握るんですから、予め釘を刺しておく必要があります」
「その憎まれ役を、私にやれと言うんだな?」
「はい」
加藤が再びニヤリと笑う。
「君は、言い辛いことをズバリと言うね」
「現場での話なら自分等で処理できますが、それ以外の事は……」
「高橋君に、音頭取りをやらせるんだな?」
「ほ、本当か!島崎さん」
高橋の顔が一気に蒼褪めた。
事前の説明では、そんな話を聞かされてなかったからだ。
しかし、島崎は表情を崩さずに話を続けた。
「ええ。課長に命令いただければ、後は係長同士の調整で済みますから」
「なるほど……」
加藤が頷く。
上からの命令とあらば、互いに下手なことは出来ない。そして、上役自らの方針転換とすれば面子を立てることが出来る。
(自分の考えを通すために、上を出汁にするとは……)
加藤は、島崎の策士ぶりに感嘆した。
「解った。組織犯罪対策係には、私から話しておく」
「宜しくお願いします」
何とか、課長の許可を得られた。高橋と島崎が、立ち上がって一礼する。
「高橋君」
加藤が言った。
「は、はい!」
高橋は、固まっている。
「良い部下を持ったな」
「はい!島崎さんは、我が強行犯係のナンバーワンですから」
「この上司あっての、この部下と呼ばれたいものだな」
「はッ!ありがとうございます」
どうやら、皮肉も通じないらしい。加藤は島崎の方を見た。
「どの程度の規模を望んでいるんだ?」
「班単位でいいと思います。あまり大人数だと、迅速さと柔軟性に欠けてしまいます」
「解った。一両日中にやっておく」
島崎逹は、課長の部屋を後にした。
「私が、あの戸田係長と渡り合うなんて……」
途端に、高橋の口から生気のないため息が漏れた。これから先、自分を待っている出来事を考えたからだ。
組織犯罪対策係々長、戸田憲一、46歳。
昇級試験だけで今の地位になった高橋と違い、実績も兼ね備えた叩き上げ。
犯罪組織と相対するために、自ずとその容貌や言動が粗野に思われている。
“荒くれ者の集団”と影口を叩かれる係の長との交渉は、高橋にとって苦痛以外の何物でもなかった。
島崎は、そんな高橋の落ち込み様が可哀想になった。
「あまりにごり押しなら、私に振ってもらって構いませんよ」「ほ、本当か!島崎さん」
途端に、高橋の顔に生気が戻った。