幸福の崩壊の始まり-1
理緒の家族は、母親美緒、父親武 兄剛の4人家族。
平凡だが幸せな家庭だ。
ある朝の朝食。
父親の武は、仕事のために既に出勤していて兄の剛もバスケ部の朝錬があるため既に登校しておりテーブルには、母親と理緒の2人のみだった。
「理緒ちゃん。今日から家庭訪問が始まるから授業は午前中だけなのよね」
美緒と理緒は、会話しながら、食事をしていた。
「うん。でも家は来週の予定だよ」
「わかってるわよ。今日は寄り道せず、まっすぐ帰ってきなさい」
「なにかあるの?」
「病院にいくのよ」
「病院?」
「だって中2になっても初潮がまだなんでしょう?」
「大袈裟だよ。たまたま発育が遅れてるだけだと思うよ」
「それならそうと早く判った方が安心でしょ」
「…めんどうくさいなぁ」
「大切なことよ。面倒がらないの。もう病院の予約も取ってあるのよ」
「はーい」
「そうそう。いい子ね」
「もうっ。すぐに子ども扱い。もう子供じゃないよ。初潮は、まだだけど。」
「……子供じゃん」
「ひっ、ひどーいっ。ママの意地悪ーっ」
理緒は、ぷくーっとふくれつらをする。
「その顔が子供だってば!」
食事を終えた理緒は、自分の食器を片付けて学校へ行く準備を始める。
「本当に寄り道なんかしないで、帰ってきてよ」
「はいはい」
「はいは、一回」
「はーい。いってきまーす。」
理緒は元気よく玄関を飛び出していく。」
「いってらしゃい。…やっぱ子供よね」
母親の声は、既に玄関の扉に阻まれて聞こえない。
そしてその日の午後、病院の待合室。
理緒は母親と供に不安を募らせて診察の結果を待っていた。
あれほどお気楽に考えていたのに病院に来てみたら予想外に検査の多さに自分は、実は、大病を患ってるのではと不安になって来ていた。
検査の結果を待つ1分1秒が、重く圧し掛かってくる。
1時間以上待たされ自分の名がようやく呼ばれたが、呼びに来た看護婦は、母親の美緒だけ診察室に行って理緒はここで待つように指示する。
その指示はさらに理緒を不安させた。
「えっ??なんで??私はここで待ってるの?まさかガンとか死んじゃう病気なの?」
理緒は、不吉な想像を膨らませてしまう。
美緒が診察室には行って30分以上立ってようやく、診察室から戻ってきた。
美緒の表情は硬い。
「ねえママ?私ってそんなに悪い病気なの?入院とかしないとならないの?」
イスから立ち上がり思いつめた表情で美緒に問いかける。
「そんな事ないわよ。やっぱり、発育が遅れてるだけなの」
理緒には、美緒の表情は何かわざとらしく明るい表情を無理に作ってるように思える。
「本当の事を教えてよ。ママ」
「間違いなく本当の事よ。だから入院の必要もないわ」
美緒の言動に不信感を持ちながらも入院の必要がないと聞いてやっと少しほっとする理緒。
「じゃあ。もう帰れるのね?」
「ええ」
2人は、出口に向かって歩き始める。
「あのね。お家に帰る前に友達に会いに行ってきていい?」
「ええ。いいわよ。あんまり遅くならないようにね」
「判ってるって、じゃあ、出かけてくるね」
理緒は、病院の外に出ると家とは、別方向に向かって歩き出す。
「どうしてこんなことに」
歩いていく理緒の背中を見送りながら美緒はつぶやく。
理緒は、歩きながら携帯をかける。
「やっほー、あ子。今病院の帰りだよ。うん。大丈夫。大したことなかった」
『今ハンバーガーショップだよ。来れる?』
「うん。今向かってる。じゃあ、そっちでね」
あ子は理緒の親友で実際には藍子という名前だが理緒はあ子と呼んでいる。
一方、美緒は自宅に戻ってきた。
病院でかなり時間がかかったため戻ってきたのは5時過ぎていた。
玄関に入ると見覚えのある革靴が合った。
「あら、お父さん、もう帰ってる。早いわ」
美緒は部屋に戻る前にリビングを覗き込む
やはり、武が戻っており、ソファーに座って新聞を読んでいた。
「あら、あなた、今日はずいぶんと早いんですのね」
「うむ。取引先から直接帰ったからな。それで理緒は、どうだった」
「それが実は……」
美緒が武に理緒の病院の検査の結果を話してる時、剛がバスケの部活を終え帰宅した。
「そんな馬鹿な!」
剛が玄関のドアを開けると同時に武の大声が聞こえてきた。
「ん?親父…もう帰ってるのか。珍しいな」
だらしなく靴を脱ぎ捨てて家の中に入る。
「何怒鳴ってんだか。リビングか…」
剛は思わず足音を忍ばせ廊下をリビングに向かって近づく。
「じゃあ、理緒は子供ができないのか」
美緒と武が話してるのは判るが武の声ほど大きくない美緒の声は、内容まで聞き取れない。
「理緒は子供ができない?…」
剛は思わず足を止めた。
「なるほど。そういうことか…」
美緒や理緒は強に話していないが剛は、理緒がまだ初潮がないことをなんとなく感じ取っていた。
初潮がないのも病気のせいでそのために子供ができない体なのだと理解した。
「考えてみれば都合がいい」
剛は再び足音を忍ばせて玄関まで戻る。
「ただいま!」
ことさら大きな声を出していかにも今、帰ってきたそぶりでどかどかと廊下を歩いてリビングの前を通る。
「あれ?親父、もう帰ってたのか?珍しいね。」
美緒と武の表情は暗く沈んでいた。
「なんか、あったのか?」
「いや、なにもない」
2人は事実を隠しとくらしい
「そういえば、理緒は?今日は、早いんじゃなかったの?」