眠れない妻たちの春物語(第二話)-6
「…ところで、恋人はいますか…」
ステージの上で、タシロにマイクを向けた金髪の女性司会者によるインタビューが始まる。
はにかむようにタシロは小さく頷き、七年前に別れた女性を、今でも永遠の恋人だと思い続けて
いると語った。そして、彼女に捧げたオリジナル曲だとマイクに向かって言うと、ふたたびピア
ノの鍵盤に向かう。
どこまでも安らぎと優しさに溢れたピアノの澄みきった旋律が、ゆるやかに流れていく。
その懐かしい曲に合わせるようにテレビの画面が、セントラルパークのハナミズキの風景を淡い
水彩画のように映しだす。
そのとき、私の目の奥が溶けていくようににじみ始め、あふれたものが糸をひくように頬を流れ
ていった…。
…その曲は、ユキコ・ラブソング…