動き出した時計-1
優羽が大学に進学して3回目の正月、優羽は店長に言われて帰省していた。
「就職はやっぱり厳しいのか?」
優羽の父・和雄が尋ねた。
「かなり.....まだ決まってない先輩もいるくらいだから....」
「優羽は向こうで就職するの?」
綾子も心配そうだった。
「どうかな?求人は向こうのほうが多いけど....こっちでも受けてみようと思ってる....」
「早く決まるといいね!」
舞姫も心配そうだった。
優羽は出来れば向こうで就職したかった。舞姫の事を忘れるために家を離れたのにまだ忘れられないでいる。そのためにこっちでの就職は出来れば避けたかった。しかしそんな事は言ってられなかった。
「はい!御守り!初詣に行った時に買って来たから!」
舞姫から御守りを受け取った優羽はその御守りを見て
「姉さん!これ縁結びの御守りなんだけど....」
「何言ってるの!どこかの企業と優羽の縁が結ばれるように!そう思って買って来たんじゃないの!」
舞姫は笑顔でそう言ったが優羽は不安そうだった....
「本当に御利益あるのかな?」
「信じていれば..願いは叶うよ!」
舞姫にそう言われれば本当に願いは叶うような気がしてきた。
「ありがとう!姉さん!」
「うん!」
舞姫は笑顔で頷いた。その御守りには....優羽がこっちで就職出来ますように!....そんな思いが込められていた....
「我が儘言って申し訳ありません!」
優羽は店長に頭を下げた。
「気にするな!早く決まるといいな!」
「はい....」
優羽は春休みの間、就職活動に専念するためにバイトにを休む事にした。そしてこの日が最後のバイトだった。店長に挨拶して店を出た時
「待って!優羽君!」
優羽は恵に呼び止められた。
「ちょっといい?」
「うん....」
優羽が返事すると、恵は優羽の手を引っ張って近くの公園に連れて行った。
「なっ....何.....」
優羽が少し焦ったように言うと、恵は優羽の手を離して、優羽の目を見つめた。
「あっ...あのね....」
恵は言いづらそうにしていた。
「恵ちゃん?何なの?」
「あのね...私....優羽君の事....好き.....」
恵は恥ずかしそうに下を向いた。
「えっ!?」
恵は顔を上げて、優羽を見つめた。
「私優羽君の事が好きなの....私とつき合って下さい....」
「ゴメン.....俺....好きな人が......」
「ウソつかないで!」
優羽の言葉を遮るように恵が叫んだ。
「だって!優羽君ずっとウチにバイトに来てたじゃない....休みの日もずっと....それに向こうにも帰ろうとしなかった....彼女がいるはずないじゃない....私の事が嫌いならそう言って!ウソだけはつかないで!」
優羽は迷った....どこまで本当の事を言うべきか....
「確かに...俺には彼女はいない....でも....好きな人がいるのは本当なんだ....俺は....俺は好きになってはいけない人を好きになってしまったんだ....だから....その人にずっと片思いしてるんだ.....」
「それでもいいって言ったら?」
恵が呟いた。
「えっ?」
「それでもいい.....優羽君の一番になれなくてもいい......私を優羽君の好きな人の代用品にしてもいい....好きなの!優羽君が!」
「っ.....」
優羽の言葉を遮るように
「今..返事をしないで...ゆっくり考えて....答えを出して....その人の事....私が忘れさせてあげるから!」
それだけ言うと優羽の返事も聞かずに恵は走って行った....優羽は恵が走り去った方向をずっと見ていた.....