白い世界-22
『キアルリア……ザギはお前……召喚師の言葉しか聞けなくなっていたのじゃな……』
だからオーウェンが何を言っても無駄だったのだ。
獅子の姿で器用に肩をすくめたオーウェンはアースに目を移した。
『キアルリアを頼む』
「……おう」
何かを悟ったアースはアビィに合図してその場を離れる。
「ちょっ……待って!オーウェン!」
「好きにさせとけ」
アースの言い方にキャラは怪訝な顔をして振り向いた。
「爺さんなりのけじめだ」
魔獣のしでかした事には魔獣がけりをつける……これは異世界の暗黙のルール……らしい。
「だって……そんなのっ……!!」
キャラはボロボロと涙を流すとアースにすがりつく。
「ったく……お前、最近泣きすぎだ」
アースはキャラの肩を抱くと、自分の胸に押し付けて安全そうな所までアビィを移動させてオーウェンに振り向いた。
オーウェンはアースに抱かれているキャラを見て少し微笑む。
全く思い通りにならない姫だった……守ろうとしても自分で立ち向かって行き、それを乗り越えていった。
もう、守りは必要ない……彼女達は自分達の足で歩んで行ける。
『そうじゃろう?キャロライン……』
オーウェンはそう呟くと、大きく口を開けて残りの塊を飲み込む。
瞬間、火口からマグマが噴き出した。
「!!!」
肌を濡らしていた汗が熱気で一瞬にして蒸発し、ビリリと痛みが走る。
マグマは魔力の塊を飲んだオーウェンをも巻き込み、空高く噴き上がった。
ファン全土から見えたこの光景は、正に地獄の始まりとでも言おうか……人々が絶望するには充分だった。
しかし、噴き上がったマグマは途中でピタリと動きを止めた。
オーウェンが居た辺り……そこからマグマが水蒸気に変化していったのだ。
水蒸気は噴き上がったマグマと、更にそれを逆流して火山の中のマグマ全てを水蒸気に変えてしまった。
水蒸気のシュウシュウという音以外何も聞こえない中……空に広がった水蒸気……雲からチラリと何かが落ちる。
「……雪……?」
雪はどんどん数を増やし、ファンを白く染めていく……傷を癒すかのような優しい雪から、オーウェンの溢れる程の愛情を感じた。
「……見事だな……」
アースはポツリと呟き、そっと胸に手を置いて目を閉じる。
ふわりと火口付近に着地したアビィから降りたキャラは、目を閉じて全身に雪を浴びた。
ザギもオーウェンも500年の鎖から解放された……。
(もう、泣かない……)
長い時間そのままでいたキャラはふいに振り向き、笑顔で言う。