白い世界-12
「報告と言うか……敵の首謀者の魔獣の名前はザギ。２つの頭を持つ紫色の大蛇です。彼を使役しているのがどうやらイレーヌと言う名前らしくて……ご存知ですか？」
「『ザギだと？！』」
ゼビア国王とオーウェンは声を揃えて驚きの声をあげ、お互いになんで知ってるんだ、と顔を見合わせる。
先にゼビア国王がセブ国の人身販売組織スネークの話をして、オーウェンはそれに頷くと自分の知っている話を始めた。
それは５００年程前の話……まだ北の大陸も穏やかな気候で、お互いの大陸を乗っ取ろうと躍起になっていた時代。
大陸同士の争いは激化し、召喚師達は貴重な戦力として戦地に駆り出されていた。
当時、オーウェンのマスターであった召喚師はファンを守る為に契約していた全ての魔獣５体を喚び出し、オーウェンを島の中心に、他の魔獣を東西南北に配置後、扉を全開にして強固な結界でファンを包んだ。
そこまで聞いたゼビア国王はゴクリと生唾を飲む。
以前、アースとグロウを分離させる為にキャラが扉を開けた現場を見ていたが、あの時のキャラの状態は今でもハッキリ覚えている程衝撃的だったし、キャラはその後３日間眠り続けたのだ。
それを全開させるというのがどれ程のものなのか想像も出来ない。
ゼビア国王の様子に気づいたオーウェンは少し笑って話を続ける。
『ドグザール殿の想像通り……召喚師が扉を全開にするという事は、命を引き替えにして何かを成すのを意味しておる……』
オーウェンのマスターは命と引き替えにファンを守った。
『マスターが死んだ後、儂以外の契約魔獣は皆あちこちに散った……異世界に戻ったのも居るがな』
そして、残りの大陸の争いは大規模な戦争にまで発展し、どこかの大陸が圧倒的な勝利でもしない限り収拾がつかなくなる程に悪化した。
それに終止符を打ったのが、北の召喚師イレーヌ。
噂によると彼女は家族を人質にされ、無理矢理戦いに参加させられていた……家族がとっくに殺されている事も知らずに。
それに気づいた時、悲しみと怒りに駆られたイレーヌは扉を全開したらしい……北の大陸を道連れに……結果、北の大陸は氷に閉ざされて全滅、それを見た他の大陸は無意味な争いだと気づき戦いを止めた。
その後、召喚師達は自分達がした大量殺戮と、実際には魔獣を使っており自分の手は汚していないという自責の念に耐えられず、全員が自ら命を絶った。
『じゃから召喚師の技は５００年前に途絶えた……キアルリアが産まれた時に素質に気づいたがあえて黙っておったのじゃ……』
まさかゼビアに行って自分で素質を開花させるとは思ってもいなかった、とオーウェンは苦笑する。
「ってこたぁ、イレーヌは既に死んでるってこったろ？ザギの奴ぁ何がしてぇんだ？」
ゼビア国王の言葉にデレクシスが自分が耳にした事を話した。
「彼は『争いの無い世界がイレーヌの望み』だと……魔力の塊というものをファンの火山に落として噴火エネルギーを利用し、異世界をこっちに引き込むと言ってました」
全大陸の滅亡を意味する内容に、話を聞いていた全員が息をのむ。