不倫ごっこ-4
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「ええっ!まさか、ずっと私を待ってたの?あそこで?」
私が持っていた買い物袋にプリントされたスーパーの名前をよく見ていたのだった。
お隣にいるのだから、いつでもひと声かけてくれればよさそうなものを大人になるという事はなかなか難しい事もある。
「話って?」
商店街の「ノクターン」という喫茶店に座った私たち。
ここに入るのは初めてだけど、ほのかな照明とコーヒーの香り。
お客は私たち以外に誰もいなくて、ピアノの音楽が流れる。
こんな落ちついた空間が身近にあったなんて、ちっとも知らなかった。
「話っていうほどの事もないけどさ…
エミちゃん綺麗になっちゃって、声もかけ辛いから…」
綺麗って何よ?…私たちはお風呂まで一緒に入った幼なじみでしょ?
「奥さんも綺麗な人よね。
タカ君、本当は奥さんが怖いんでしょ?」
私も多少言うようにはなっているが、こんなところは昔と変わらない。
私に気づいていたくせに素っ気なくした腹いせに少し意地悪言ってやったりしたのだった。
「人の運命って不思議だよね。
そういえば、エミちゃんをお嫁にするんだとか言ってた憶えがあるなぁ。」
「そうよ、エッチまでしちゃったじゃないの。」
「えっ!?」
「覚えてないの?もう、サイテーっ…」
私はテーブルの上のタカ君の手を握るとわざと顔を寄せて声をひそめる。
「タカ君ちのお風呂で私のアソコにおちんちん挟みたいって言うからさせてあげたじゃない?
結婚してくれるっていうからさせてあげたのにぃ…」
恐妻家の幼なじみをからかうのは蜜の味…
ほとんどドSの心境だった。
そういえば、幼い頃もこんな感じでタカ君を困らせてやった事も幾度か覚えてる。
タカ君のクラスにおしかけて「いつも一緒にいてくれるって言ったじゃない。」とか…
タカ君は男の子たちと遊びたかったのについて行って自分にばかりかまわせたりとか…
やはり私に素っ気なくしたから。
幼い頃から私は厄介な女だったのだろうか?
でも、心配しないで。
もう大人だからほどほどにしておいてあげるわよ。
「いや、すまない…
エミちゃんの顔を見たとたんに昔と何も変わらないような気持ちになっちゃってさぁ。
今さらこんの不自然な話だよね、僕らももう大人だもんな。」
私はあの頃、よっぽどこのタカ君が好きだったのだろう。
女の子のお嫁さんにしてもらうというのはたぶんタカ君のその感覚とは違った意味があったにちがいない。
なのにまた、タカ君はこんな弁解じみた言葉で口を濁したりするのだ。
幼い頃、タカ君は自分の思う事を話す時とっても真っ直ぐな目をしていた。
それでもあの頃と同じ目でいたのだ。
今から思えば、私はタカ君のこの目が好きだった。