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『ポッキーとプリッツ』
【青春 恋愛小説】

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『ポッキーとプリッツ』〜ポッキーの憂鬱〜-1

早瀬はいつも音楽室に入ると一番に,窓を開ける。

「聞かせてやろうぜ。全校生徒に,お前の歌声を。」

そうニヤリと笑う時以外,早瀬は私に笑顔を見せない。

「だって俺,お前みたいな女,一番嫌いだから。」

それが理由らしい。

なのに,コーラス部の伴奏のみならず,私のソロの個人練習に毎日付き合ってくれるのは,

「残念ながら,歌声が一番好きだから。」

だそうだ。
声なんて親からもらった,自分の努力で得たものでないものを好きになられても嬉しくはない。

ありがたくはあるけど。

だって,私は今,コーラス部でソロを親友の律子と争っている。
当初,ソロには興味がないと練習に一切出てこなかったが,最近コンスタントに音楽室に顔を出すようになった。彼女の練習には,顧問の先生が付き合っている。

本気になった律子に私が敵うわけがなかった。
歌も,恋も――。
それでも,簡単に白旗を上げるわけにはいかない。

だって……

「今,歌以外のこと,考えてただろう。きちんと練習しないなら,相手しない。俺は暇じゃないんだ。」

そう言うが早いか,早瀬はもうピアノの蓋を閉めて,荷物を抱えて出て行こうとしていた。

「待って。」

それだけ言うのが精いっぱい。

「あのね,今日ちょっと嫌なことがあって,調子が悪いの。」

微笑んでみた。

「人生相談なら彼氏にやってくれ。俺は,そうやって誰にでも簡単にヘラヘラ笑ったりする女が一番嫌いなんだ。」

早瀬は容赦ない。

「彼氏はもういないよ。今日ふられたから。安宅は,律子が好きなんだって。」

私は淡々と事情を説明した。

「なんだ,それ。」

一瞬でも,早瀬が同情してくれると思った私が馬鹿だった。
早瀬は盛大に笑った。
これまで見たこともないような心底可笑しいと思っているような笑いだった。

仕方がないので私も笑った。

「なんでそんな時もヘラヘラするんだよ。お前のそういう笑顔,大嫌いなんだよ。」

早瀬はピシャリと言い,振り返ることなく音楽室を出て行った。

バタンという重いドアの閉まる音が時間差でして,それがした途端,堪えていた涙が,大量に出てきた。

少し驕っていたのかな。
男の子はみんな,私が微笑めば優しくしてくれるって。
皆からちやほやされて,それが当たり前になっていたのかもしれない。
だから,そうじゃない早瀬みたいな人に少し強いことを言われただけで,涙が出てきてしまうのだ。

いや,この涙は……。



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