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『約束のブーケ』
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『約束のブーケ』-12

「忙しいですね。式の段取りも聡さんに任されてるんですよね?」

「ああ。でもこういうのは俺向いてるから。別に苦でもなんでもないさ」

聡さんは軽い気持ちで言ったのだろう。
だけど僕はその言葉を必要以上に飲み込んでしまう。
他人の為に働ける人間になりなさい、とよく親に聞かされたことがある。
でも僕は、それが決して誰にも出来るわけじゃないと思う。
誰だって自分の事が一番可愛い。
いくらそれが親切な行為でも、心のどこかで自分を称えているのではないか。
みんなそうだと思っていた。
100%の献身など不可能だと。
でも、この人を見ていると、そうやって考えてしまう僕の視界が狭いだけなんじゃないかって思わされる。
聡さんと出会ってからは、そんな新鮮な体験ばかりだった。

「先生、綺麗ですね。中学にいた時とは別人みたいだ」

「そりゃ一生に一度の晴れ舞台だ。幸せな時は輝やいて見えるもんさ。周りだって最高の式にしたいと思ってるんだから色々頑張るだろ?そうやって外と内から埋めていく。これで綺麗にならなきゃ嘘だ。まあ、あの堅物先生がここまでになるとは思ってなかったけどな」

悪戯っぽく彼は笑った。
壇上のテーブル席に座っていた主役の二人は身を寄せ合って挨拶に来た生徒達とじゃれあうように会話している。
聡さんの言う通り、周りのみんなが二人の幸せを願っているからこそ、この光景がこんなにも美しく見えるのだろう。
そして、僕もその脇を固める一員なのだと思ったら、無性に誇らしかった。

式はその後、順調にプログラムを消化していって、新郎新婦が退場した後に僕たちは校門に移動した。
校門の前には車が停まっていて、その左右を参加者が並んで見送るという手筈になっている。
程なくして先生と旦那さんが昇降口に現れ、場は暖かな拍手と歓声に包まれた。
僕と透もその一列に倣って邪魔にならない程度に前かがみになりながら拍手を送る。
どこかから紙吹雪が舞ってきて、見上げると3階の窓に何人かの生徒の姿があった。

「うわっ、すごいですねこれ」

透が手をかざして驚きの声を上げた。
何人かの先生が慌てて階下まで詰め寄り怒鳴っている所を見ると、打ち合わせにはなかったことなのだろう。
だが、他の生徒には概ね受け入れられているし、今日という日に説教は無粋だ。
聡さんは呆れながらも微笑ましそうに風に舞う紙吹雪を眺めていた。
ヴァージンロードを歩き終わった新婦が振り返って花束を投げた。
ブーケトスだ。
中学生にはまだ早いと思うが、女生徒達がキャーと声を出して花束を掴もうとしていた。

「元気だなぁ」

透がその光景を見て苦笑いしながら言った。

「何でブーケを取ると幸せになるって風習があるんですかね?」

「幸せの象徴だからじゃないか」

僕はあまり考えずにそう言った。
幸せのお裾わけ、そんな言葉が浮かんだが、割と的を得ていると思った。


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