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『約束のブーケ』
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『約束のブーケ』-11

当日、式は滞りなく慎ましやかに進行していった。
会場となった音楽室には生徒達が飾り付けた折り紙のチェーンやキラキラのメッキモールで溢れていて、和やかな雰囲気に包まれていた。
神前式用に事前に渡された楽譜の曲を何曲か弾いた後、場は歓談モードに入った。
司会を担当していた生徒の子が僕を紹介してくれて、しどろもどろになりながらも立ち上がりお辞儀をした。
みんながそれに拍手で応えてくれて、僕は即興でディズニーを披露した。
聴き慣れている曲の方が参加者の人たちも退屈しないだろうと思ったからだ。

「先輩、ジュースここ置いておきますね」

曲の合間に透が飲み物を持ってきてくれた。
今日の式には関係ない彼だったが、なぜか行きたいと言って付いてきたらしい。
正直人見知りの僕は会場でどう時間を潰そうかと思っていたので透の存在は非常に助かる。

「お疲れ様です。先輩のピアノ、すごく評判が良いですよ。先生方もそう言ってたって兄さんが」

「そっか。ありがとう」

と言って、もらったグラスをゆっくり傾けて人心地ついた。
思えば、コンクール以外でこうやって人前で演奏するという機会は今までなかったかもしれない。
この学校に在学していた時も、僕はこの音楽室くらいでしかピアノを弾いていなかった。
先生達の驚いた顔が印象的で、ほんの少しこそばゆかった。

「食べ物もありますけど、取ってきましょうか?」

「いや、いいよ。それよりもここにいてくれ」

分かりました、と言って透が苦笑した。
窓際に寄りかかり二人してちびちびジュースを飲みながら、ささやかなパーティの様子を眺める。
聡さんは生徒に囲まれながら談笑していた。

「お前の兄さん、やっぱり人気者だな」

「そうですね」

僕がそう言うと、透は淡々と相槌を打った。
羨ましそうな、それでいてどこか誇らしげな顔だった。
僕は一人っ子だから分からないけど、優秀な兄がいるというのはどんな気持ちなんだろう。
もし自分にそんな兄がいたらと考えたら、僕みたいな心の弱い人間は…きっと屈折してしまうだろうと思った。
透はどうか知らないけど、まったく関係ないとも言えなかった。
僕と透は元々、同じ高さにいたからだ。

「兄さんは、僕の自慢ですよ」

透が遠くを見てポツリと言った。
その横顔は兄弟そっくりだった。
僕は思う。
聡さんは透が立ち直ったのは僕のおかげだと言ったけれど。
それでも一番の功労者は兄貴だったんだって。
透がどんどん聡さんに似てきてるのがその証拠だった。

「空になっちゃいましたね。ちょっと小腹も空いたし何かもらってきます」

空いたグラスを見て、透がテーブル席の方に向かった。
代わりにあちこちで引っ張り出されていた聡さんが嘆息しながらこっちにやってきた。

「休憩ですか?」

「おう、この後答辞も読まなきゃいけないからな。また伴奏頼むよ」

と言って聡さんは首を鳴らしながら右手でネクタイを緩めた。
疲れは見せていないけど、少しだけ頬が上気している。


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