『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-8
「ちっ!」
間髪入れずクリス機にのしかかろうとするアーゼンに、エリックがライフルを掃射する。
アーゼンは突然進行方向を変えて銃弾をかわし、エリック機にライフルを向ける。
先ほどの銃撃で、エリックは察知されていたのだろう。
(やばい!)
そう思う間も無く放たれた弾丸が、エリック機のコクピットの前を覆ったシールドに直撃した。反射的にシールドを構えたものの、殆ど運だ。当然シールドに傾斜をつけられる訳もなく、垂直方向に弾丸を浴びた盾はそのまま砕け散る。が、とりあえず命は拾った。
しかしほっとする時間も、アーゼンは許してくれない。
砕けたシールドの破片、その向こうで、アーゼンがエリック機に向かって第二撃を撃ち込もうとしていた。
「くおぉぉおおお!」
本能的な直感で、エリックは機体を横に滑らせる。
瞬間、銃弾がシールドを持っていた腕の付け根に命中し、衝撃がコクピットを揺らす。
もはや防戦一方なエリックだが、当然アーゼンは手加減などしない。
気付けば、アーゼンがエリック機のすぐ前まで来ていた。
エリック機は咄嗟に銃を向けるが、ナックルで腕を弾かれ、懐に潜り込まれてしまう。
いつの間にかライフルを捨てていたアーゼンの左腕が、エリック機の胴体をひっつかむ。
「…なっっ!?」
アーゼンの意図を測りかねて思わず声を漏らすエリックに構わず、アーゼンはエリック機を下手投げに投げた。片手でワーカー一体を投げるなど、想像できない事だ。
さすがは新型機の性能、という所なのだろうが、もちろんエリックにそんな事を考える余裕は無い。倉庫から出てこようとしたセラムに投げつけられたエリック機は、豪快な音を立てて倉庫口を塞いでいた。その所為で、応援は期待できそうに無い。
エリック自身は突然の衝撃になんとか耐え、すぐさま機体が動くかどうかを確かめる。
もはやモニタは真っ暗で、何も映し出してはいない。
「くそっ、イっちまったか!?」
何も映さなくなったモニタに毒づき、エリックは歯噛みする。
こうしている間にも、クリスが危険に晒されているのだ。
外部からの情報が遮断されたコクピットだからこそ、余計に焦る。
「止まってる場合じゃないんだ!動け!この!」
居ても立ってもいられず、エリックはコントロールパネルをガツンと叩く。
途端、コクピット内の各種センサが起動し、システムが復旧した。
いつかの巨大コンピュータといい、壊れた機械は叩けば直るのだろうか。
いや、エリックの運が良いのだろう。
ともかく。
「おっしゃ!」
思わず叫んだエリックは、素早く機体を起動させる。モニタに、外の様子が映った。
そこには、まだ吹っ飛ばされたままのクリス機と、それにのしかかっているアーゼン。
クリス機のコクピットに、アーゼンがライフルの銃口を向けるのが見える。
ゼロ距離射撃で仕留めるつもりらしい。