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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-9

「ちっ……!クリス、逃げろ!」
クリス機は動かない。
『エリック?駄目、動かないの。』
 そこでやっとエリックに気付いたのか、クリスが返事をする。
通信回線は開きっぱなしだったのだが、運良く二機とも共通の回線を使っていたのだ。
やけに冷静な声だが、余裕がある状況ではもちろん無い。
どうやら吹っ飛ばされたショックで、クリス機は動力系がやられたらしい。
『脱出も無理。ハッチが歪んでるわ。』
「くそっ!」
 叫んで、エリックはトリガーを引く。
アーゼンはエリック機に気付いていない。完全な不意打ちだ。
 エリック機のライフルから放たれた弾丸は、銃撃の方向を見てすらいないアーゼンのナックルガードに、あっさり弾かれた。
(これも弾くのか!?)
 クリス機のコクピット位置に、銃口が当てられる。
「くそっ!やめろっ!やめろよっっ!!」
 半ば狂乱状態に陥りながら、エリックはライフルを連射する。
もうアーゼンを倒す手立ては、手詰まりだ。絶望感に襲われるエリックだが、打ちひしがれる訳にはいかなかった。
しかしそんな抵抗も空しく、アーゼンのナックルガードに弾かれるだけだ。
『システム、復旧まであと三十秒。間に合わないわ。』
 何処に弾がくるか知っているかのようなアーゼンの動きは、銃弾を一発たりとも通さない。クリスのどこか悟ったような声が、遠く聞こえる。
そして。
『……エル……』
「やめろぉぉぉおおおおおお!」
 クリス機のコクピット位置に当てられたライフルの銃口が、火を噴いた。
放たれた銃弾はコクピットを突き抜け、後ろの壁にも穴を穿つ。
「クリス――――――っ!」
 瞬間、エリックはクリス機に向けてセラムを走らせていた。
同時にアーゼンの胸部で爆発が起こり、そのままアーゼンは仰け反って倒れる。
生き残っていた歩兵が、対ワーカー用のバズーカを使用したらしい。
しかしエリックにとって、もはやそんな事はどうでもいい。エリック機はクリス機にとりついた。
クリス機の胴体には穴が開き、パンチの影響か全体的に歪んでいた。
真っ暗い穴の中には、何も見通す事は出来ない。
エリックの不安を表すかのような暗い、黒い穴。
「クリス!クリスっ!おいっ!」
『………』
 返事は無い。
とにかくエリックは胴体の装甲を剥がし、中を確かめようとする。
嫌な予感がしている。見るべきでないような気がする。
しかし、確かめずには居られない。
見ることを止めようとする理性を押し流すような衝動が、エリックを突き動かす。
そして遂に、エリック機はコクピットを覆う最後の一枚を、剥がした。
「―――――――――――っっっっ!!」


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