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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-66

「誰か、俺を此処で死なせてみろよ…!」
 呟き、エリックは最後の一押しとばかりにコンソールのキーを叩く。
途端、ベルゼビュールから噴出する白い煙幕。
以前ミネルグが、アーゼンから逃げるために使ったのと同じものだ。
「できるもんならなっっ!」
 煙に巻かれて敵部隊がベルゼビュールを見失っている間に、ベルゼビュールはボムを撒き散らしながら、白く染まった視界の中を影の密集している方へと突っ込んで行く。
途中で敵ワーカーとぶつかっても、跳ね飛ばしながら。
煙を抜けると、目の前には多数の敵ワーカー。怯むことなく、エリックはベルゼビュールを敵の群れへと潜り込ませる。自分の動く線さえ確保していれば、密集したワーカーが射線を遮り、数が多い敵部隊は潜り込んだベルゼビュールを攻め難い。
つまり、下手に距離をとるよりは逆に突っ込んだ方が安全なのだ。
煙幕の中から響く爆音。かなりの数の敵を、爆発に巻き込んだ筈だ。
同時に、横に展開していた超重シールドの列にもかなりの広さで穴が開いていた。
『よし、戦列が乱れた。全ワーカー、突撃開始だ』
 切断していなかった通信から聞こえた、司令部の声。
『…!敵部隊に増援。少数だが速度が尋常じゃない。報告で聞いていたM型か…?』
 集中状態のため聞き流していたエリックだったが、その言葉にぴくりと反応する。
「…アーゼン……アルファか…?」
 一瞬思考が持っていかれ、ベルゼビュールの動きが止まった。
「…まずい……っ!」
 はっと気付き、慌てて動きを取り戻したもののメインモニタには、銃口をベルゼビュールに向けた敵ワーカーの姿が映し出されていた。回避は、間に合わない。
死ぬ。
エリックが感じた瞬間。その敵ワーカーの胴体に穴が開き、仰け反った。
一瞬遅れて、仰け反った敵ワーカーが周りの数体ごと纏めて吹き飛ぶ。
『…援護する』
『ぼやっとしてんなよ、エリック!』
 通信機から聞こえる、ギザとヲルグの声。
機を逃さずに動きを取り戻したベルゼビュールの後方サブモニタに、二人の機体が映る。
両手にガンシールドを装備したギザの機体『ガゼッソ』と、両手でようやく持てる巨大な連装グレネードガンを装備したヲルグの機体『セド』だ。
普通に敵部隊と距離を置き、後方五〇メートル程の場所に居る。
この二機は、そのデータからレイアーゼを開発したという、言わばレイアーゼの前身に当たる機体である。ガゼッソは多重装甲による高耐久力、セドは装甲の排除による高機動がコンセプトとなっている。現在の戦術としては恐らく、ギザのガゼッソに隠れて、ヲルグのセドがグレネードガンで敵を排除しているのだろう。
ちなみにその両方の案を取り入れたのがレイアーゼで、装甲と駆動系の一部をアタッチメント方式にする事で仕様の大幅な変更を可能にしたのだ。
「…すまない、助かった」
 近くの敵ワーカーをマシンガンの掃射で沈黙させながら、エリックは礼を言う。
H・S達のワーカーが敵部隊の注意を引きつけた為、少しは楽になってきた。
『…敵の増援が接近している。気をつけろ』
 ペダルでベルゼビュールの移動を制御しながら、エリックは北の方角からやってくる増援を確認した。数は判然としないが、二小隊規模である。
「……アーゼン………」
 忘れもしない、鉛色に鈍く輝く曲線的なフォルム。
そのアーゼンが十機程、土煙と共に迫っていた。


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