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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-53

「第二部隊、ソレを狙え!」
 軍人が、慌てた様子で指示を飛ばす。だが指示を出した次の瞬間。左下の映像には、外されたシートの下にあった砲台が火を吹く様子が、映し出されていた。
『了か…………』
建物に先ほどより強烈な振動が伝わり、右下と左下の映像も、スピーカーからの音声も、ぶっつりと途切れる。つまりは、シートの下にあった移動式長距離砲台によって屋上の長距離砲が破壊され、司令部の目を壊されたのだ。
「第二部隊沈黙。メインカメラ破損」
「……S型ワーカー、タンク換装の後、目標変更。移動式砲台を狙え」
『了解』
 冷静さをなんとか保っている様子で、軍人が指示を出す。
途端に、建物に再び走る衝撃、そして振動。恐らく、移動式長距離砲の仕業だ。
幸い司令室は地下のシェルターにあるため、さしたる影響も受けない。
かといって、のんびりとしていられる状況でもない。
「狙撃仕様ワーカーの射程範囲内です」
 オペレーターは努めて冷静に言う。
「対角線狙撃、準備。対角線狙撃が可能な距離になったら、攻撃開始」
『了解』
 エリックの記憶では、狙撃仕様ワーカーはレイヴァリーを囲む壁の上に居た筈だ。
対角線射撃……ここでの意味は、右に居る者は左を狙い、左に居る者は右を狙うという形だ。これによって、超重シールドに守られていない側面からの狙撃が可能になる。当然射程は短くなるが、元々射程の長いジュマリア兵器だ。ナビアよりは遠くから攻撃できる。
と、後方に残っていた部隊が消えていく。S型が、砲台を破壊したという事だろう。
スピーカーから、銃声が聞こえてくる。狙撃が始まったのだろう。
「………ふぅ…」
 軍人は、小さく息を吐く。ここまでくれば、いつものパターンだ。残った敵は優秀なH・S達のワーカーが仕留め、これ以上の損害を出す事無しに、防衛できる筈である。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「!南ゲートで第五部隊とG3が敵歩兵隊を発見、交戦開始!」
 オペレーターの、緊迫した声が響く。
「何っ!?何故今まで感知できなかった!」
 動揺を押し殺そうとして失敗したかのように、軍人が叫ぶ。
南ゲートの周辺にはセンサー類が張り巡らされ、それら全てに引っかからずに突破するのは不可能な筈なのだ。
「駄目です。センサー類、全て反応無し。何らかの妨害かと…」
「ちっ…北は陽動か………!」
 軍人は舌打ちを一つし、事態を静観していた隊長に声をかける。
「そういう訳だ。至急南ゲートに向かってくれ。……周辺のH・Sを南ゲートに呼び寄せろ。持たないようだったら、南ゲートを爆破して時間を稼ぐんだ」
突然降って湧いた事態に、エリックは隊長と共に、司令室の声を背にして走り出した。
ベルゼビュールは、テスト場のある南研究棟の格納庫に預けてある。
「ベルゼビュールの整備は!?」
 エリックは走りながら、南研究棟の整備兵に連絡を入れる。
『はい、もう整備終わりました!』
 その声を聞き、エリックは頭の中で格納庫までの最短ルートをシミュレートする。

 「…まだ、南ゲートで食い止めているらしいな」
 南研究棟に入って暫くすると、エリックの耳に爆音が届いた。
響く振動に、エリックの前を行く隊長は舌打ちを一つ。
「…言ったそばから…!」
 隊長は苛立たしげに言って、エリックに走りながら振り返る。
「お前は機体を回収しに行け!」
 エリックはその声に答えて小さく頷くと、隊長と別行動を開始する。
目標は、格納庫。クリスの遺したベルゼビュールを、他人に渡す訳にはいかなかった。
エリックはその決意と共に、走る速度を上げた。


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