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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-26

「何年前くらいですか?」
 尚も食い下がる『クリス』。
「確か………十七年かそれぐらい前だったと思うぞ…?」
「……十七年前…………やっぱり…」
 何か納得したように、彼女が頷いた。
「………ふふふ…」
 途端に、さもおかしそうに笑い始める。
「……なんなんだ…?」
 その様子に、唖然とするしかないエリック。
『クリス』が変なのは今に始まったことではないが、今回は少し様子が違う。
「…ふふ…いえ、お気になさらないで下さい。ふふふ…」
 眩しそうにエリックを見つめると、再び微笑む。
そんな態度をとられては、ますます気になってしまうのが人の性だ。
エリックは、当然追求しようとする。しかし。
「…さて、いつまでも此処に居ては、またあの方たちが戻っていらっしゃるかもしれませんね。移動を致しませんか?」
「……ぐ……」
 突然正論を振りかざす『クリス』。
そういう風に言われてしまうと、エリックも引き下がるしかない。
「……ったく……?」
 ふてくされ気味に言い、エリックが元来た道へ戻ろうとした時。
『クリス』の後ろ…エリックの向かおうとしていた方向から、男が飛び出して来るのが見えた。それは、あの暗い部屋で『クリス』に銃を向けていたあの男だった。
あの時暗くてよく見えなかったが、鼻に張られているガーゼからしてそうだろう。
手には、以前も見たサイレンサー付きの銃。
「くそっ!」
 咄嗟に、『クリス』を抱え、飛ぶ。一瞬遅れて、「ぱすっ」という音がする。
サイレンサーで消音された銃声だ。
地面に倒れこみながらも、腕に痛みが走った。
「…ぐっ……」
 腕を撃たれた。そう感じた瞬間には、エリックは『クリス』共々地面に倒れていた。
と同時に彼女と男の間に回りこみ、無事な方の手を上着の内側に入れる。
「〜〜〜。」
 しかし、エリックの動きはそこで止まる。男が、銃をエリックの眉間に突きつけていた。
恐らく男は『動くな。』とでも言ったのだろう。
「………」
 ぶつかり合うエリックと男の視線。腕に走る激痛を押さえ込み、エリックは気迫を途切れさせまいとする。
と、不敵に、男が笑ったような気がした。
次の瞬間。
「…っがぁ………っ!!」
 男がエリックの撃たれた方の腕を踏みつけたのだ。
そしてそのまま、エリックの上着から男が素早く銃を抜き取る。
『クリス』への道をあけはしなかったが、思わず呻くエリック。
激痛が身体の芯へと響き、脂汗が噴出す。
「……っ」
 そんなエリックを見かねたのか、『クリス』がエリックの前へと進み出た。
その顔に、いつもの笑顔は無い。真剣な表情をしたその頬に、涙が伝っていた。
「〜〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
 エリックには理解できない言葉で、彼女が何かを言っている。
大体予想はつく。
男が銃口を『クリス』に向け、引き金を引こうとする。
「…っ……やめろぉぉおおお!」
 その姿が、アーゼンに銃を向けられたクリス機に重なって見えて。
エリックは思わず、前にある『クリス』の身体をどけていた
当然彼女をどければ、銃口はその後ろに居るエリックに向けられる。
自然に目の前へと出現した銃口の、その黒い闇がエリックの視界に飛び込んだ。
一瞬が、永遠にも感じられる瞬間。
その時エリックの頭に浮かんでいたのは、恐怖でも痛みでもなく、記憶。
クリス機を貫いた銃弾。そのコクピットの装甲を剥がす自分。そして……
どうしても思い出せなかったその先が、今は思い出せた。
(クリス……!)

「ぱすっ」と、空気の抜けるような音がした。


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