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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-25

「くそっ!」
 エリックは公園周りを覆っている柵に足をかけ、片手に『クリス』を持ち替える。
「あの……」
「喋るな!舌噛むぞ!」
 また何か言いかける『クリス』を黙らせると、エリックは一気に柵を越え、公園を抜け出て繁華街へと躍り出る。さすがは傭兵、という所だろうか。
ちらりと周りを見れば、男たちは遅れながらもしっかり追ってきていた。とりあえず目の前の繁華街に逃げ込み、雑踏に紛れる。とはいっても、女性を抱えて走る男は目立つ。周りの視線も集まるし、男達は迷わずエリック達の方へと走ってくる。
土地勘の無いエリックには、ここから先どういったらいいかもよく判らない。
加えて『クリス』を抱えて走っているのだ。普通に走っていれば、追いつかれるのも時間の問題である。そうなれば、彼女を守り切る自信はない。
「私を降ろして、早くにこの場を離れられた方がよろしいかと…」
 周りを見回しているエリックに、『クリス』が声をかけてくる。
「く……うるさい!そういう自己犠牲精神は発揮するな!」
 一瞬クリスの事を思い出してしまい、知らずエリックの口調は厳しくなる。
「とにかく、お前は自分が助かる事だけ考えてりゃ良いんだよ!」
 そうして会話を締めると、エリックは目に入った路地に飛び込む。
「…しかし…」
 『クリス』は尚も何か言いたそうにしている。
「いいから、俺に任せておけ!」
 何も言わせまいと遮るエリック。その言葉を聞き、『クリス』は一旦目を閉じる。
そして目を開くと、にこりと笑った。
「……判りました。エリック、貴方の御心のままに。」
 その言葉を聞きながら、エリックは尚も走る。
『クリス』は黙らせたが、それで状況が良くなる訳でもない。
後ろから追いかけてくる男達は少しづつ距離を詰めて来ているようだ。
長い直線の道では、後ろに男たちの姿が見えたりもする。
路地の道は段々と細くなっていき、それに伴って曲がり角や分かれ道が増えていく。
エリックはただ勘に任せて、道をひた走る。
「……ここは…」
 ポツリと、『クリス』が呟く声が聞こえた。
「…見た事がある……?」
 エリックが、続けるように言う。
別に、さっき通った道とかいうオチではない。
昔に、ここに来た事があるような気がしたのだ。
そういえば、とエリックは思い出す。昔、家族と一緒にルゥンサイトを訪れた時だ。
ここの辺りで家族とはぐれて迷子になった事があるのだ。
断片的にだが、記憶が蘇って来る。
その時見た光景を、今の風景に投影する。
「こっちか!」
 思わず叫び、エリックは曲がり角を右に曲がる。
記憶とは少しずれているが、エリックの思った通りの道があった。
脇に立つ、当時は新しかった古いレンガ造りのアパート。
その角を曲がってすぐの所にあるもの、それは………
……。
 ばたばたと、男たちがエリック達の下を通り過ぎて、路地の曲がり角へ消えていく。
「…行ったか…」
 それを見届けたエリックは、抱えた『クリス』と共に梯子を降りる。
そう、このアパートには緊急用に鉄製の梯子が取り付けられていたのだ。
普通は、曲がってすぐのこの梯子に気付いたりしない。
「今も残っていてくれて助かった…」
 ふぅとため息をつくと、エリックはずっと抱きかかえていた『クリス』を降ろす。
「……ここに来た思い出が?」
 降ろされた彼女が、首を傾げて尋ねる。
「ああ……確かずっと昔に家族とこの街に来てな。この梯子に興味を持った俺はこれに登ったり降りたりしてたんだが…親は地図を見るのに必死で、俺の事に気付いてなかった。それで、迷子の出来上がりだ。懐かしいな。」
 それを聞いて、『クリス』は何かを考えるように、口元に手を当てる。
「…?どうした?」
「それで…その後どうなさったんです?」
 尋ねるエリックに構わず、『クリス』は逆に聞き返す。
「……?確か…誰かに手伝って親を探してもらった…ような気がするな…?まぁ、古い話だから詳しくは思い出せないが。」
 うろ覚えな記憶だけに、途切れ途切れになりつつエリックは答える。


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