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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-154

「腹は決めた筈だろ……」
 この期に及んで行動を起こしたがらない自分自身に焦れて、エリックは呟き。
(クリス……)
 冷凍装置の中で眠るクリスを思い浮かべる。途端に、これまでやってきた事も、これからやる事も全て、クリスに会う為なのだ。クリスを治療する事を考えれば、こんな事で迷っては居られない。
 あと、もう少し。そう思えば、エリックは心から迷いが薄らぐと思ったが、実際は少し違った。
 迷いはある。しかしその気持ちよりもはるかに強く、クリスとの再会を思って心が逸る。
こんな事をさっさと終わらせようという気持ちが沸いてくるのだ。
「もう少しか……」
 罪悪感を飲み込むような期待感に、自分の身勝手さを実感して。それでも期待に胸を高鳴らせて。エリックは半ば陶酔するように呟いた。
『どうした?』
足を止めたベルゼビュールを訝ったか、、グレゴリー機がベルゼビュールの方を振り向いた。それを引き金として、エリックはベルゼビュールの腕を振り上げさせる。
持ったマシンガンの銃口が、グレゴリー機のコクピットを捉えた。
『ん、何を』
「悪いな」
 言いかけたグレゴリーの言葉を遮るようにして、エリックがベルゼビュールに引き金をひかせる。発射された銃弾は至近距離だっただけあって、グレゴリー機のコクピットを易々と貫いた。
『ッ!?』
 銃声に呼応して三機のペールが弾かれた様に向き直るが、完全に不意を衝かれてはひとたまりもない。ベルゼビュールのマシンガンに次々とコクピットを打ち抜かれ、三機とも撃ち倒される。
しかしどうやら一人、パイロットが生き残ったらしい。
『く、くそ……』
倒れたペールの内一機がよろよろと腕を持ち上げて、手に持ったライフルをベルゼビュールに向けようとした。が、コクピットに止めを差されて今度こそ沈黙する。
「……」
 期待感に浮かされた銃撃の後には、酔いが醒めたような気分の悪さが残った。
所要時間十秒足らず。しかしイツアスに入ってからの戦闘で一番の疲労感を覚えて、エリックはため息を吐きそうになって。
「ふっ!」
 しかしその一呼吸を、気合の呼気に変えてペダルを踏み込む。
 ここで休む訳にはいかない。もう少しでクリスに会えるかもしれないのだ。
「このまま終わらせる……!」
 やけになったように躍動するベルゼビュールは、エリックがマップ上から選んだターゲットに向かう。と、その時。
『協力者、応答求む。こちら待機中の施設制圧班。グレゴリー隊長は無事か!?』
 所属しているジュマリア残党のネットワークからの通信が入った。ネットワーク上から、突然グレゴリーらの反応が消えたのだから。何かあったと思うのが当然だ。
 こうして状況を尋ねてくるあたり、観測の歩兵は居ないか、居ても連携が取れてはいないだろう。つまり、好機だ。
エリックは少し考えてから、口を開く。
「こちら協力者エリック。撤退していなかったナビア軍の襲撃を受けた。敵は排除したが、グレゴリー達がやられた。こういった場合の指示は受けているか?」
 自分のやったことながら、エリックはしれっと答える。
『……隊長の無念を晴らす。予定通りこちらの護衛を頼む』
 通信相手の返答は、エリックの予想通り。
さっさと逃げればいいものをと、エリックは心の中で毒づく。
この苛立ちが罪悪感から来るものなのか、クリスとの再開前に手間を増やされた事なのか。エリックにはわからなかったし、判ろうとする気もない。どちらにしても変わらない。
 エリックはただ、やるべき事をやるだけだ。だから、素知らぬ声で返事をする。
「……了解。それではそちらに合流する」


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