投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最初へ 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 206 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 208 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最後へ

『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-153

『このまま粒子の放出が続けば避難所に住民が閉じ込められる。勿論避難は別働隊が並行して行うが、まず俺達は元を断つ』
「なるほどな」
 救助活動が別に行われるのなら、この場のグレゴリーや変電所を攻撃しようとしている部隊が全滅した所で問題ないだろう。
『俺達はお前の進路上に居るから、良ければ協力してくれ』
「今からか、勝ち目はあるのか?」
『……分が良い賭けとは、そりゃいかないがな。相手も町中にこれだけの仕掛けをしている最中だ、隙もあるだろう。逆に、今を逃せば俺達は手を出せなくなる』
 確かに。ナインの裏事情を知っているエリックからしても妥当に思える意見だ。
「……そうか」
それならば、遠慮する事はない。
『この忌々しい雪もどきをどうにかするには今だ。どうする?』
 返事を促すグレゴリー。言いながら、降り続く粉雪のようなナノマシン粒子を振り払うように、ペールの手を振ってみせた。
「……」
 考えるフリはしてみるものの、エリックの腹は既に決まっていた。どのようにグレゴリー達を処理するにせよ、とりあえずは味方という形で接触すべきだろう。
「判った。そちらの作戦に参加しよう」
サブディスプレイに表示されたマップを見ながら、エリックは腹をくくる。マップの赤い光点はすぐそこだ。さして時間もかからずに接触するだろう。
 接触したらすぐ攻撃に移るか、それとも一度油断させるか。考える内に四機のワーカーが見えてくる。恐らく、グレゴリー達のものだ。
カムフラージュの為なのかナビア軍のものを奪取したからなのか、常駐のナビア軍が使っているのと同じ、ペールタイプだ。
その内の一機の肩口に、三方向に伸びた針葉樹の葉に似たシンボルマークがペイントされている。そのマークを見て、ようやくエリックの中でグレゴリーの顔が連想された。
こんな時になってだ。
『こちらグレゴリー、そちらを視認した』
 エリックがグレゴリー達のものと思われるワーカーを認めたと同時に、通信が入ってきた。
「あぁ、こちらも確認した」
 サブディスプレイに映ったコンディションチェックによれば、ベルゼビュールは損傷もほぼ回復しており、武装の状態もまだ余裕がある。このままグレゴリー達と戦闘になったとしても、支障はなさそうだ。
『珍しい機体とは聞いていたが、確かに目立つ機体だな』
 ペール達の中からグレゴリーの機体が進み出た。そのカメラアイの照準が、ベルゼビュールを品定めするように動いた。コクピットの中を覗かれている訳でもないのだが、思わず目を逸らしてしまうエリック。
『まぁいい。時間が惜しい。作戦に必要なデータをそちらに送るから、ここからは話しながら進むぞ。どうせもうナビア軍も居ないからな』
 前置きもそこそこにグレゴリー機は歩き出し、周りのペール達とベルゼビュールもそれに続いた。同時に、ベルゼビュールのサブディスプレイにデータの受信を示す表示が現れる。エリックがコンソールを操作して送信されたデータを表示すると、共有回線を通じたネットワーク更新の知らせだ。これでエリックは正式にグレゴリー隊の一員として、攻撃部隊の位置情報やプラン等を共有できる。
最初から攻撃を仕掛けず、潜り込んだ甲斐があったというものだ。。
「……」
 味方となったエリックがネットワークに入るのは当然、妙な話ではない。だが既にグレゴリー達を敵対者とし認識しているエリックとしては、なんとも妙な感覚がした。
 胸の奥に沈殿するようなこの心のもやは、これからする裏切りに対する拒否反応だろう。
攻撃してきたり銃を向けてくるならまだしも、こうして信頼されるとどうにもやり難い。無防備であるがゆえに、攻撃を躊躇ってしまう。
『データを見れば大体の事はわかるだろうが、口頭でも説明しておく。エリック、あんたは俺達と変電所の正面から攻撃を仕掛けて欲しい。制御装置制圧用の歩兵を載せた装甲車を、内部まで護衛する』
 もうベルゼビュールは友軍だと認識されているらしい。レジスタンス軍のワーカー達はベルゼビュールに背を向けたまま、ずんずんと進んでいく。
『余り時間が無いからゆっくり紹介はできんが、こいつらのデータもある筈だ。道すがら確認してくれ』
『こちら二番機、トマスだ。よろしく』
 グレゴリーの声に応えて、パイロットが挨拶する。声からすると中年だろうか。
『三番機、アリュードです。宜しくお願いします』
『四番機、リヒャルト。よろしく頼む』
 若い少年のような声達が続いた。
「……ああ、よろしく」
 彼らの声に返事を返して。エリックは出会い頭に打ち倒して置くべきだったと考えを改める。変に情が移ってしまいそうだった。
『突入には作業ワーカー用の出入り口を使用する。敵の戦力が不明だから詳しい作戦は立てられないが、変電施設の爆破も視野に入れて対建築物用のワーカーも同道させる。これが第二護衛目標だ』
 前を行くペール達の背を映すディスプレイを見ながらエリックは、レバーグローブの中で指を彷徨わせる。ベルゼビュールの指はその動きを受けて、マシンガンのトリガーに指をかけ、止まる。
『仲間達は俺達の到着と同時に仕掛ける手筈になっている。余り待たせる訳にもいかないからな。急ぐぞ』
 話を聞きながら歩を進めるベルゼビュールのモニターが、建物の向こうに聳え立つ塔のような変電所を映した。変電所に到達する前に、この小隊を始末しなければ。
攻撃が開始されてしまう。
 ジリジリと先延ばしにしてきた行動だが、猶予はもう幾らもない。
 コクピットの中で、焦燥がエリックを包む。


『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最初へ 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 206 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 208 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前