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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-3

「……ちっ……」
 舌打ちして、エリックは踵を返した。そのまま扉に向けて歩き出す。
ミーシャが出て行くまで居るつもりだったが、遂に耐えられなくなったのだ。
「変わったわね。」
 ふと、空を見たまま振り返りもせずにミーシャが言った。
明らかに、エリックに向けた言葉。
「ああ。俺は強くなったし、お前みたいな、親友がどうなったか判らなくなっても表情一つ変えない冷血女とは違うからな。」
 ミーシャの背中を睨みつけ、エリックは言う。
「そう。」
 怒るかと思ったが、ミーシャは背中を向けたまま、そっけない返事を返してきただけだ。
その態度が、エリックをより一層苛立たせる。
「カイルはお前を親友だと思ってた。なのにお前は…!どうせあいつの事なんか何とも思って無かったんだろ!?これじゃカイルが浮かばれ」
「カイルは親友よ。」
強い響きを帯びた声で、ミーシャはエリックの言葉を遮った。
そこで、エリックは自分の言っていた事に気が付いた。
なんて事を言ってしまったのか。
ミーシャの内面は、態度のようにクールでは無いと知っていた筈なのに。
「………」
 エリックは緊張して、ミーシャの次の言葉を待つ。
なじられても、仕方が無いと思った。
「変わったわね。」
 しかしミーシャはただもう一度そう言っただけでそのまま振り向き、呆然とするエリックの横をすり抜けて、屋上を出て行った。
「…………くそ…」
エリックは暫く固まっていたが、やがて我に返ると、また悪態をついた。
ミーシャの行動は罵倒よりもよほど深く、エリックの心を抉った。
「俺は……何やってるんだよ……」
 これで良いのかと、エリックは自問する。
良く無い。それは明らだ。が、どうして良いのかも判らない。
昔に戻る訳にはいかない…何も出来ない自分に戻る訳には。
だが今の自分は、何が出来る?戦況を一変させられる訳でも、連れて行かれたカイルを連れ戻せる訳でも無い。今でも自分は何も出来ないままだ。
早く、強くならなければならない。上の目に留まる位に。
だが…今のままのやり方で良いのか?
…直ぐに思考は袋小路に陥り、エリックは考えるのをやめた。
考え事は、力を手に入れてからで良い。というより答えが出ない。
「………くそ……トレーニングでもするか……」
 答えが見付からないもどかしさに三度悪態をつくと、エリックはトレーニングルームへと向かう。トレーニングに没頭している間だけは、他の事を忘れられる。
それは悩みからの逃避であるとエリックは気付いていなかった。
…或いは気付かないようにしているだけか。
それを認める事は、自分の弱さを認める事に他ならないのだから。
愚かなまでに、エリックは自分の弱さにコンプレックスを抱えていた。


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