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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-2

第一話・半年
 《変後暦四二三年十月十一日》


「エリックの奴、またAランクだぜ……」
「この基地じゃあ、もう完全にあいつがトップだな……」
トレーニングルーム。ワーカーの操縦シミュレーターが設置されているこの部屋で、エリックは遠巻きに視線を浴びていた。
クリスと別れ、カイルが居なくなってから約半年。
エリックは何かに取り憑かれたかのように、朝も昼も夜も訓練に没頭していた。
…いや、実際取り憑かれていたのだろう。強くなりたいという願望に。
この半年間、戦局は完全に膠着してお互いの睨み合いが続き、戦闘もあまり起こる事が無かった。数度起こった戦闘は、どれも両者に殆ど被害も無く、双方撤退という状況だ。
そしてエリックもミーシャも、そのことごとくを生き抜いてきた。
しかし、エリックは更に過酷な環境を求めていた。
無力な自分を憎む気持ちが膨れ上がり、危険を求めているのだ。
今日もそんな悶々とした気持ちを抱えたまま、エリックはトレーニングルームを出る。
昼食だ。それが終わればまた訓練である。最近はミーシャとも、あまり話さなくなった。
ミーシャと居ると、どうしてもカイルの事を考えてしまうから、半ば避けるようになってしまっていた。
「…………くそ……」
 廊下を歩きながら、誰にとも無く悪態をつく。
或いはそれは、変わっていく自分に対しての不安の表れだったのかも知れない。
エリックは、確かに自分が変わって行くのを感じていた。
それが良い事なのか、悪い事なのか……
自分に判断がつかない事を判断してくれる友は、彼の傍には居ない。
ひたすらに、エリックは孤独に陥っていた。
食堂に着いたエリックは、がらがらの食堂で一人、配給食を口にする。
ふと、出撃前夜の事を思い出す。なんだかんだ言いながらも、楽しかった夕食。
しかしカイルの、あのあっけらかんとした声が響く事は、もうない。
「………ちっ……」
 舌打ち一つして、食事もそこそこにエリックは席を立つ。
「…不味い配給食がさらに不味くなったな……」
 一言ぼやきながら食器を返却し、エリックは屋上へと足を伸ばす。
ここの所トレーニングルーム通いで、ろくに外にも出ていなかった事を思い出したからだ。
外の空気を吸えば、少しは気も紛れるかと思った。

鉄板に囲まれた狭い階段を上りきり、味気ない灰色の扉のノブを回す。
そのまま力をかけると、軋んだ音を立てて扉は開いた。
瞬間。風がエリックの顔を撫で、通り過ぎて行く。
基地内の閉塞的で無彩色な内装とは対照的に、高く晴れた秋空がそこには広がっていた。
昔なら清清しい気分になれたであろうその景色も、今のエリックには味気ない。
空の色も、心なしかくすんで見える。世界が、色褪せているようだ。
「………心が、磨り減ってるのかもな…」
「そうね。」
 思わず呟いた言葉に、横から返事が返って来た。
見れば、屋上の淵にある手すりに、ミーシャが寄りかかってエリックに振り向いていた。
なんとなく既視感を覚えるその状況に、エリックは胸の奥が痛むのを感じた。
クリスを思い出す度に、逢いたいという思いが痛みになって胸を締め付けるのだ。
そんな訳で面白くも無さそうに、エリックはミーシャから離れた場所に陣取ると、そのままミーシャを無視するように地平線を眺めた。
別に踵を返して屋上から出て行っても良かったのだが、それはなんとなく悔しかった。
ミーシャはそんなエリックを無表情に見つめた後、興味を失ったかのように顔を前にも戻して景色を眺める。
そのまま互いに口を聞かず、時間が流れる。
雲が流れ、付近の木々が風に葉を揺らす音が聞こえてくる。
そんな和みとも言える時間すら、エリックには面白くなかった。


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