『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-19
「それじゃ、行くか。」
そう言って立ち上がろうとしたエリックだったが。
「待って。話があるわ。」
突然、ミーシャが引き止めた。
「………なんだ?」
振り向いて、ミーシャと目が合う。
「……………」
黙って、視線を落とすミーシャ。今ここでは言えない話らしい。
単に言いにくいだけという場合もあるが、ミーシャはそれで言葉を濁したりはしない。
そのくらいの事、エリックにはすぐわかる。なんだかんだで付き合いは長いのだ。
「……先、行っててくれ。後で俺も行くから。」
言ってIDカードを渡すと、エリックはアルファ達を送り出す。
「ア、ソレジャ……」
少し気にしながらも部屋を出て行くアルファとそれに続くアリシアを認め、エリックは再びミーシャに向き直る。
「それで、なんだ?」
様子から話が深刻なものだと察したエリックは、低い声で聞く。
「……場所を変えましょ。」
ミーシャは周りを見回すと、そう言って立ち上がった。
アルファはかなり人目を引く存在だ。
そして先ほどまでアルファと喋っていた彼等も、微妙にではあるが注目されていた。
「そうだな…それじゃ、屋上にでも行くか。」
そう答えて、エリックは席を立つミーシャに続いた。
…………。
「彼女、誰?」
屋上に着いて、人目も少なくなった所。ミーシャは単刀直入に、そう切り出した。
「………」
半ば以上予想していた問いだったが、答えられるかどうかは別問題だ。
「答えて。」
黙っているエリックに、ミーシャは続ける。
「……誰って……本人に自己紹介されただろ……?」
やっとのことで、エリックは言葉を搾り出す。
「私が聞いてるのは、本当の事。」
恐らく、ミーシャはカマをかけている。
ガルフェット小隊は機密督戦部隊だ。一平卒が構成員を調べるなど、できる筈が無い。
ここで、エリックがクリスの言った事を肯定すれば良いだけの話だ。
しかし……
「……」
疎遠になっていたとはいえ、ミーシャは親友だった。彼女に嘘をつくのは、躊躇われた。
「なるほどね。」
そして彼女にとっては、その沈黙が答えだった。
エリックがミーシャの事を大体判るように、ミーシャもエリックの事は大体判るのだ。
「ミーシャ……この事は……」
懇願するようなエリックの目を見たミーシャは、面倒そうにため息をつく。
「わかってる。」
そしてそう言うと、そのまま中へと続く扉へ歩きだす。
「……すまない…」
その背中に、エリックは感謝と謝罪の意を込めて言う。
ミーシャはそんなエリックに、振り向きもせず軽く手を上げて応える。
「やっぱり……」
ちらっと。エリックを振り返る。
「貴方、変わってないわ。」
目の端が、少し笑っていたように見えた。
…………。
エリックは屋上でやり取りの後、トレーニングルームに向かっていた。
クリスが、後でトレーニングルームに来るような事を言っていたし、訓練もするし、IDカードを長く預けておくのも少し怖い。理由としてそんな所だ。
そしてトレーニングルームに入ったエリックが、モニターでエリックのIDを使っているシミュレーターを調べてそこに入ろうとした時。扉が開いて中から何かが飛び出して来た。
飛び出して来たのは、アルファだった。いや、飛び出して来たというよりは、むしろ投げられた感じだ。そしてそれを追うようにシミュレーターから出てきたのは……