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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-3

「ふぅ……」
さして広くもない部屋に、ため息がこだまする。
六人で一つ与えられる兵士用の部屋。
そこに用意された自分用のベッドに仰向いて寝転がり、切れ長の目を閉じて、ため息の主である女性は一人部屋に居た。
彼女の手の中では、リボルバータイプの拳銃がくるくるとダンスを踊っている。
不安やストレスを抱えた時に銃をいじってしまうのは、彼女の癖だ。
先ほどブリーフィングが終わってから、ずっとこの調子である。
ふと、彼女は目を開いて体を起こす。
彼女の、緩やかなウェーブを帯びた赤い長髪が、さらりと揺れた。
「やっぱりここに居たか。」
「うい〜すミーシャ、緊張してないか〜?」
明るい声と共に戸口から顔を覗かせたのは、エリックとカイルだ。
「別に。」
 やや面倒そうに、そっけなく答えるミーシャ。
しかし彼女の内心は態度ほどクールではない事を、エリックとカイルは知っていた。
三人は訓練学校時代からの友人なのだ。
「そうか。それより飯まだだろ?」
 質問というより誘いの意味を込めて、エリックは聞く。
「いいわよ。」
 答えてミーシャは起き上がり、廊下へと出る。この辺りは既につうかあの関係である。
「よし、じゃあ行こうぜ〜!」
そのままカイルが先頭に立って食堂へと歩き出す。
初出撃前夜であるにも関わらず、彼らの間にはいつも通りに時が流れていた。

食堂(兼休憩所)。
前線の作戦拠点に食堂があるのは、一重にワーカーの建設能力があってこそである。
敵地での電力の確保という点、そして兵士の衛生面に於いても、この簡易基地はそれなりの効力を発揮している。
その空いたテーブルの一つに、エリック達三人は座っていた。
「明日の攻撃目標って、どこだっけ?」
「……っ!」
テーブルについてすぐカイルが言った言葉に、軍から支給される豆スープを口にしていたミーシャが、無表情なままむせた。
まだ口をつけていなかったエリックは難を逃れたが、それでもすぐには返答出来なかった。
「…………聞いてなかったのか?」
 こめかみを押さえながらやっとのことで言葉を搾り出すエリックに、カイルはいつもの爽やかスマイルを見せる。
「ああ、さっぱりだ。後でお前らに聞けば良いかな〜って思ったからな。それにミッション前に、また詳しいブリーフィングがあるって聞いたし。」
全く悪びれない様子のカイルに、エリックは深く深くため息をつく。
「前々から思ってたんだが……お前馬鹿だろ?今回のミッションポイントは……」
「シイル基地よ。」
 やっと落ち着いたミーシャが、エリックの言葉を継ぐ。
シイル基地と云うのは現在のナビア、ジュマリア間の勢力境界線上に位置する基地で、元はナビアの基地だったものをジュマリアが開戦早々に奪取した場所だ。
現在エリック達がいる簡易基地から四〇キロ程離れている。
「ん?そこって確か……最近雷神が出現した所だっけか?まだ居るかもだよなな。」
 意外とあっけらかんとした様子で、カイルが問う。
『雷神』は一所に留まらない。目的は不明だが、いつも戦場を転々としている。
どこに現れるか判らないその神出鬼没性も、雷神の脅威な点の一つだった。
「お前本当に何も聞いてないんだな……。」
 エリックはやれやれとばかりにカイルを小突き、説明する。
「一昨夜、雷神がベイクルスに居たんだとさ。距離的に、今雷神がいる可能性は低い。」
エリックとミーシャの説明に、カイルは軽く舌打ちをしてみせる。
「なんだ、それじゃあ雷神退治はまた今度だな〜。」
 そんなカイルの様子に小さく微笑むと、エリックは自分の豆スープを口に運ぶ。
カイルもそれに倣ってスプーンをとり、会話はそこで途切れた。


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