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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-4

第二話・出撃
《変後暦四二三年四月三日》


森林の広がる一歩手前に、台の巨大トレーラーが止まっていた。
その中には、五台のワーカーが搭載されている。
そしてその内の一台に、エリックの搭乗する機体はあった。
「分かっていると思うが我々の役目は、コーレイ小隊達が相手の注意を引き付けている間に、反対側に待機しているベリッツ小隊と共にシイル基地を挟撃する事だ。……我々が如何に素早く敵基地を制圧できるかで、味方の損害が決まる。心してかかれ。」
小隊長の声がコクピットに響き、エリックは操縦桿を握り締める。
「シイル基地は周り五キロを荒野に囲まれ、その外縁部を森に覆われている。これからこの森を突っ切って外れまで移動し、そこでコーレイ中隊の指示を待つ。各機、トレーラーから降りて移動開始。歩兵隊はトレーラーで待機だ。」
『了解』
小隊内で繋がった通信に、全員の声が重なる。
そしてトレーラーの横が四つに分かれて開き、中から全長六メートル程の鉄の巨人が姿を現した。ダークブラウンに塗装された、ペール?という型のワーカーだ。
シーフ大戦の頃ナビアで開発された機体の後継機で、その堅実で丈夫な設計から信頼度も高く、未だにナビアの主力ワーカーとして使用されている。
五機のペール?は一斉にモーター音を響かせると、次々にトレーラーから踏み出していく。
「よし、出発。」
通信と共に小隊長の機体は先陣をきって森の中へと入って行き、小隊のメンバーがそれに続く。
背の高い森の木々達が彼らの姿を覆い隠してしまうまでに、さほど時間はかからなかった。

たまに遺跡の見え隠れする森を、小隊長について一列に進むこと小一時間。
突然小隊長が止まり、制止の合図を出す。
彼らの先で森は開け、その向こうでは荒野が広がっていた。
「全体、止まれ。これ以上行くと奴等に気付かれる。」
 森から一歩でも近付けば、即座に気付かれる。
そして今気付かれれば、ワーカーで基地に辿り付くまでの二十分弱で、敵は迎撃準備を整えてしまうのだ。
「作戦時刻まであと一四一二秒。時間になればコーレイ小隊が突撃を開始する。それまで少し休め。」
 小隊長の言葉に、隊員たちはコクピットの中で休み始める。
と言っても、エリックは休み方など知らない。
(カイルとミーシャはコーレイか……二人とも大丈夫かな……二人の安全の為にも、俺が
頑張らないと……)
 そんな事を考えながら、エリックはただシイル基地の在る方向を睨みつける。
パイロットグローブの内側が、じっとりと湿っていた。

「そろそろ作戦時刻だな。コーレイ中隊の指示があったらすぐに発進する。各機準備は良いな」
「ヘイシェルツー、レディ。」
「ヘイシェルスリー、レディ。」
「ヘイシェルフォー、レディ。」
「ヘ、ヘイシェルファイブ、レディ!」
 緊張丸出しなエリックの様子に、スピーカーから複数の忍び笑いが聞こえた。
思わず赤くなるエリックに、小隊長から声がかかる。
「そういえばお前は今回が初出撃だったな。……そんなに緊張する事は無い。訓練どおりにやって、俺の指示に従えば大丈夫だ。」
「はい!ありが」
「シッ!待て。コーレイ中隊が突撃を開始した。」
 エリックの言葉を遮り、小隊長が黙り込む。
小隊長は、他の小隊長達や中隊長と通信回線を共有している。これによって、戦場において迅速な指示を下すのである。
そしてそれは通常、小隊長以外に漏れる事が無いようヘッドフォンで行われる。
つまり戦場全体の様子は、この中では小隊長以外分からないのだ。
……………………。


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