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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-2

第一話・出撃前夜
《変後暦四二三年四月二日》


簡易基地。
作戦拠点を作る際、ワーカーの建設能力を利用して即席で作る小規模な基地の事である。
そんな簡易基地の一つ。ナビア軍基地。

「……以上でブリーフィングを終了する。全員解散!」
白熱灯のちらつく会議室に、男の言葉が響く。
それを合図に、椅子に座っていた兵士たちが続々と席を立ち思い思いの場所に散って行く。
そんな中、一人だけ席を立たない者が居た。
彼は座したまま動かず、ただ俯いてじっと下を向いている。
赤茶けた髪に平均的な顔立ち。
彼のその精悍と言えなくも無い顔には、不安げにブラウンの瞳が揺れていた。
「はぁ……。」
思わず出たため息が、彼の暗鬱を物語っている。
「おう!暗いぞ、エリック!!」
そんな彼の肩を、明るい声と共に勢いよく叩くものが居た。
「はぁぁぁ……こんな時だっていうのに、お前は元気だな。」
エリックは深くため息をつくと、肩を叩いた人物に振り返る。
肩を叩いたのはエリックと同じ年頃、さらさらな金髪をなびかせるナンパ者風の青年だ。
「おう、ナビアきっての色男であるこのカイル君は、いつでも笑顔を絶やさないナイスガイなのさ!」
言って胸を張るカイル。
エリックは再度ため息をひとつ吐き、こめかみを押さえる。
「お前さ…絶対に今の状況、分かって無いよな?」
エリックの言葉にも、カイルは依然として笑顔のままだ。
「分かってるって。明日出撃なんだろ、俺たち。しかもパイロットになってから初出撃。」
「分かってるんなら何でそんなに元気なんだよ、お前は?」
エリックの向ける恨めしげな視線にもまるで動じず、カイルは爽やかな笑みを崩さない。
「だって今更どうこう言ったとこでどうにもなんないだろ〜?だったら初陣を華々しく飾って、……目指せ闘将!」
エリックを励ます為か地なのか、。微塵の不安も無く、あらぬ方向をビシッと指差すカイルの様子に、エリックは軽く苦笑を浮かべた。
どうもカイルと話していると、悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しくなってしまう。
いつもやかましい位にうるさいカイルだが、こういう時にはありがたく感じる。
「ふっ……」
 一つ呼気を吐き出すと苦笑を不適な笑みに変え、エリックは立ち上がる。
「違うな。どうせなら目指せ“雷神討伐”、だろ?」
『雷神』。開戦当時にジュマリアに現れた凄腕のパイロットで、ナビア側のワーカー三百機という大部隊をたった一機で全滅させた話は未だに有名である。
一昨年の十月に雷神が撃破されたという噂も流れたが、その後も雷神機とおぼしき凄腕のワーカーが戦場で目撃されるに至って、噂は既にデマだったとされている。
そしてそんな雷神を倒すといったエリックの瞳には、もはや迷いや不安は無い。
カイルはにっと笑うと、エリックに向かって拳を突き出す。
「言ったな?よし、じゃあ俺たち二人のどっちがあいつを先に落とすか、競争だぜ」
「ああ!」
エリックは答えてカイルと拳を突き合わせ、笑い合った。
「んじゃ、今日のところはとっとと飯食って寝ようぜ?もう腹と背がくっつきそうだぜ。」
カイルは大袈裟な動きで空腹を訴えると、エリックをぐいぐい廊下の方へと押して行く。
「分かった、分かったから……その前に、ちょっと寄り道いいか?」


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