『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-27
クリスは暫く、探るようにエリックの瞳を覗いていた。
しかしやがて長い瞬きをして、改めてエリックを見る。
「……それじゃ、目閉じてて。」
「は?」
突然のリクエストに、エリックは思わず聞き返す。
「いいから!」
「あ、ああ……」
結局クリスの気迫に負けて、エリックは目を閉じた。
「最初っからそうすればいいのよ…」
何やら、クリスがぶつくさ言う声と共に。エリックの頬に、クリスの手が当てられた。
柔らく暖かいクリスの手の感触に、エリックはドギマギしてしまう。
そこで、エリックは気付いた。
(こ、これは……!もしやあのパターンでは!?)
あのパターンがどのパターンかは知る由も無いが、とりあえず状況はエリックの予想通りに進んでいた。
クリスの吐息が顔に掛かるのを感じる程に顔が近付き、今にも触れそうだ。
そしてそのまま二人の顔は近付き……
エリックの額に、柔らかい感触がした。
「……ん?」
意外な結末に思わず目を開けたエリック。
そんな彼を見て、赤い顔で笑っているクリスがいた。
「何を期待してたの〜?あたしはまだOK出してないわよ。」
してやったりとばかりに笑うクリスに、エリックは思わずため息。
「顔、赤いぞ。恥ずかしいならするなよ……」
「う、うるさいわね!全く…黙って悔しがってればいいのよ……」
それじゃ俺が面白くないという言葉を飲み込んで、エリックはまだ赤いクリスに恨めしげな眼を向ける。
「結局、答えはNGか?」
まぁ、これまで散々情け無い所を見られたのだから、それも仕方ないかもしれないと、エリックは思う。
「…焦らないで。答えは……保留中ってとこね。」
「保留……?」
「そう。あたしの中にはエルが居る。多分死ぬまでエルはあたしから消える事は無い。」
その言葉に、エリックはまた胸の内がもやもやするのを感じた。
「だからね……エルを超えて見せて。戦争が終わったら、あんたがエルを超えたかどうか、審査してあげる。もしエルを超えているようなら……あたしを貰ってやってね。」
最後の方は恥ずかしそうに笑いながら、クリスは言った。
その言葉を受け、エリックの内側にふつふつ闘志が湧き上がる。
「よし、わかった!やってやろうじゃないか!」
そう言って握りこぶしを握った時。
遠くの方からプロペラ音が近付いて来た。
「………どうやら迎えが来たようね……それじゃ、とっとと行きなさい。見付かって捕まるのも嫌でしょ?」
「ああ、それじゃ……またな。」
「うん、またね。」
エリックはクリスに別れを告げると、ひらりとペール?に乗り込んだ。
少しだけ、様になって来たような気がする。
そしてエリックはちらりと振り向き、ペール?でその領域から離脱していく。
恐らく簡易基地までは、一日位で着くだろう。
後ろ髪惹かれる思いを、カイルやミーシャの事を考えてやり過ごす。
とりあえず、エリックの心中は希望と闘志に溢れていた
………。ピリリリリ!ピリ
「こちらエリック。」
「あ、まだ通信圏内にいたんだ。良かった!」
「クリス!?」
「さっきちょっと言い忘れた事在ってね。」
「言い忘れ?」
「うん。エルの事で、ね……」
「エルの事で、か?」
「そう。もしかしたら気付いてるかも知れないけど、エルって……」
「は?よく聞こえないぞ?」
「だからぁ……るは…らいじん……」
「え?」
「……………」
『ツウシンケンガイデス。』
「切れたか……しかし、なんだ…?」
「確か…『エルは………らいじん…』…ライジン……雷神……?」
「…………」
「………何いぃぃぃいいいいいい!!??」